日本の文化 本当は何がすごいのか【第1回:祭りと日本人】

祭りと日本人

富士宮まつり

神社は神様がやってくるところ

 神社ではその格式に合わせてさまざまな祭りが行われます。神輿や山車が出て、出店も開き、その賑やかな雰囲気を人々が楽しむ。いまではそれがお祭りと受け取られていますが、そもそもはそうではありません。神と出会う。それが祭りの基本です。
 
 神社は神が降りられるところ、神がやってくるところです。人々は神と出会うためにお参りするわけですが、その出会いを意図的に行うのがお祭りです。
 
 辞書を引くと、「まつり」には四つほどの文字が当てられています。一つは「祀」。これは神に祈り、一定の場所に安置することです。それから神の御霊を慰める「祭」。そして「奉」。神に献上し、召し上がっていただくことです。最後は「政」。政治を行うことです。そこに共通するのは、神と出会うことです。

なぜ祭りをするのか

 神と出会うとはどういうことでしょう。祭りを観察すればわかることですが、祭りでは人々は気分が高揚します。興奮を覚えます。時には酒を飲んで酩酊したような状態になります。神に感応したというのか神が憑依したというのか、トランス状態に陥ることもあります。これは人間の原形に発するもので、人間は神から出てきた、神から生まれたということを思い起こす欲求の現れでもあります。そのために人間は常とは異なる位相に自分を置こうとします。これが神と出会うということです。そのために祭りをやるのです。
 
 だから、神輿を担ぐ若者や壮年の人たち、団扇を打ち振ってそれを煽り立てる年長者、お囃子を奏する人、神楽を舞う人は、そのとき神に近づき、自身が神になるのです。
 
 また、祭りは集団で行います。人間は共同体を構成するとき、その中心となるもの、人々に共通する精神の核となるものを必要とします。それが神で、共同体の人々は、自分たちは同じ神と共にあるという感覚を共有するために祭りを行う、という側面もあります。
 
 自然信仰がそうさせるのですが、神道は多神教です。日本人の感覚では神はあらゆるところに宿っていますから、たいへん身近です。これは祭りには欠かせない重要な要素です。
 
 ギリシャに「ディオニソス的」という言葉があります。ギリシャ神話にディオニソス神がいますが、これは酩酊の神で、お酒の神バッカスの元締めのような神です。そこで気分を高揚させ、興奮し、酩酊に似た状態になることをディオニソス神に近づいたと見て、ディオニソス的というわけです。ギリシャ神話の世界は多神教ですから、日本のそれと類似したところが多々あります。
 

一神教と多神教

 これがキリスト教のような一神教ではこうはいきません。キリスト教では神は人間を超越してはるかに隔絶した遠い存在ですから、神と同化し、一体化するなどはとても難しいことで、考えられません。キリスト教でも祭りは行われますが、それはただただ神を崇めるために行うもので、厳粛に終始します。
 
 もっとも欧米などのキリスト教世界でも、人々の興奮を誘い、日常にはない賑やかさ、騒がしさを出現させる祭りもないではありません。キリスト教が広まる以前の信仰は、ほとんどが多神教でした。日本に類似していました。人間の原形、人間の原初がそうさせるのです。キリスト教という 一神教に被われた世界でも、人間の大元の根っこのところを思い起こそうとする欲求を妨げることはできません。一神教のキリスト教の世界にあっても、人間の原形を保持していこうという欲求は消すことはできず、賑わしい祭りとなって噴き出すということです。
 
 自然のすべてに神を感じる自然神。さまざまな御霊。共同体の首長、統治者の神である皇祖神。日本には実にさまざまな神があります。そしてそれらは等しく神です。こういう形の多神教を原始的なもの、文明文化から一段遅れた未開のもの、と見なす見方がありますが、それはどうでしょう。時代がどのように進み、どのように変わろうとも、人間はあくまでも人間です。この根源を大切に保持していくという文化が、多神教にはあります。これは本当に大切にしていかなければなりません。
 
 最近の祭りは地域起こしや観光の側面を強くしています。しかし、その実態を見ると、神に出会うという祭りの本質は失われていません。それどころか、若い人たちもどんどん祭りに加わってきて、無意識にも祭りの本質を強めているように思われます。これはたいへん心強いことです。

(出典/田中英道著『日本の文化 本当は何がすごいのか』育鵬社

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』(いずれも育鵬社)ほか多数。


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