世界文化遺産から読み解く世界史【第51回:巨石は何を語っているのか――ストーンヘンジ、エーヴベリーの巨石遺跡】
なぞの巨石群
ストーンヘンジは、イギリスのイングランド南部のソールズベリー平原にある巨石遺跡です。紀元前3000年頃から紀元前1500年頃までにつくられたといわれています。高さ4.5メートル、重さは25トンもある巨大な石が、直径30メートルの円周上に並び立ち、その上に約7トンの石が乗せてあります。これは環状列石とよばれるもので、巨石の配置は太陽の運行に関係があると推測されています。当時に人々にとっても、太陽が時間の観念を与える大きなよすがであったと想像されます。5組の三石塔が馬蹄形に配置されているのも、太陽を観測するためのものと考えられています。 これと似た遺跡が実は日本にもあります。青森県の三内丸山遺跡の近くにある大湯環状遺跡です。この環状遺跡もとても規則正しくつくられています。ストーンヘンジほど大規模なものではありませんが、ストーンヘンジの場合と同様、太陽をいかに観測するかということを日本人が縄文時代に行っていたことが推測されます。 これには二つの環があって、一つは太陽、もう一つは月なのかもしれません。まだ、はっきりわかっていません。いずれにしても、この時代に、東洋、西洋に共通して、石による文化遺産がつくられ、ともに太陽の運行と関係しているということがわかります。 ストーンヘンジをつくったのは、原ヨーロッパ人ともよぶべき人々で、後にこの地にやってきたケルト人ではありません。日本の縄文時代との共通性
ストーンヘンジで私が注目するのは、この時代、人々がその土地や自然と深く結びついて暮らしていたということです。 日本列島では、縄文時代の人々が、自然と常に融合しながら暮らしていたわけですが、ストーンヘンジは、それと同質の文化がヨーロッパにもあったということを示しています。そこに、日本の縄文時代との共通性を見ることができます。 ストーンヘンジの北方30キロメートルのところに、エーヴベリーというところがあります。ここにも同じような巨石の遺構があって、紀元前2600年頃につくられたと考えられますが、1.3キロメートルの円周上に百個あまりの立石が並んでいます。これなどもストーンヘンジや大湯環状遺跡と非常によく似ています。 自然と結びついた、太陽を観測する装置としての巨石が、日本にも、イギリスのようなところにもまだ残っているということは、日本人の自然信仰と同質のものがたぶん原ヨーロッパ人にもあったのだろうということを予想させます。 (出典=田中英道・著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 田中英道(たなか・ひでみち) 昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『日本の文化 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『世界文化遺産から読み解く世界史』『日本の宗教 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史――世界最古の国の新しい物語』(いずれも育鵬社)などがある。ハッシュタグ
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