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クリミア半島への侵略を正当化するロシアの無茶な言い分
2019年12月03日
クリミア半島への侵略を正当化するロシアの無茶な言い分
グレンコ・アンドリー
<文/グレンコ・アンドリー>
クリミア半島への侵略行為を正当化しようとするロシア
クリミア半島の地図
ウクライナ南部には、クリミア半島という地域がある。それは行政的にクリミア自治共和国と、セバストポリ特別市に分かれている。2014年2月末から3月上旬にかけて、クリミア自治共和国とセバストポリ特別市はロシア正規軍に占領され、その後ロシアはこれからクリミア半島はロシア領土であると宣言した。これは明らかな領土侵略であり、国際法違反である。 だが、残念なことにロシアの侵略を正当化しようとする論調も存在する。ロシアがウクライナの領土であるクリミア半島をウクライナから強奪したことを正当化するために、二つのプロパガンダのパターンが最もよく利用されている。 一つ目は「クリミア半島は元々ロシアの領土だ」、二つ目は「クリミア半島に住んでいる人の大多数はロシアへの編入を望んだ」、この二つのパターンである。
かつて自国領だったからといって奪ってもいいのか
先ずは一つ目のパターンについて。クリミア半島がかつてロシアの領土であった時期があったという歴史の事実は、その領土を現在の所有者であるウクライナから強奪してもいい理由にはならない。 単純化すると、こういうパターンである。A国とB国がある。そしてB国の一部の地域は、昔A国の領土だった時期があった。この理由で、A国はB国から領土を奪っていい理由になるのか。当然ならない。かつて領有したことがあるからといって、その領土を今の帰属国から奪っていいという理屈は全く通用しない。もしこのようなことを認めるのであれば、世界中は領土の奪い合いと戦乱に陥るのは確実だ。なぜなら「かつて領有していた領土」というものは多くの国があるからだ。 確かに、世界中は多くの領土問題、領土帰属をめぐる紛争、対立が存在する。しかし、クリミア半島には領土問題は存在しない。クリミア半島はウクライナ領土である以外の解釈はありえない。
ウクライナ独立以来クリミア半島は自国領だった
ここポイントだが、ウクライナが独立して以来、クリミア半島は連綿とウクライナの領土である。そして、独立した時点では、ロシアを含めて世界の全ての国はクリミア半島はウクライナの領土であると認めていた。つまり、ウクライナの領土構成や国境線について、異論を持った国はなかった(ウクライナと隣国のルーマニアの間は、領海線をめぐって議論はあったが、それは2008年の国際裁判の判決によって解決し、両国はその時に定められた領海線を認めている)。だからウクライナは領土問題を抱えておらず、その全ての領土は間違いなくウクライナに帰属していることが明確である。
ロシアもクリミア半島はウクライナ領と正式に認めていた
更に、クリミア半島を現在不法占領しているロシアだが、そのロシア自身が、ウクライナが独立した時点でクリミア半島はウクライナ領だということを認めているのだ。ロシアはそれ以降、何度もクリミア半島はウクライナ帰属だと認め、それについては異論がないと表明している。 例えば、1994年にウクライナが核兵器を放棄する際に署名された「ブダペスト覚書」では、ロシアはウクライナの独立、主権、国境を尊重する義務があること、更にロシアはウクライナに対して武力行使、武力による威嚇をしてはいけないと書いてあり、その覚書にはロシアの大統領が署名している。 また、1997年に締結された、ウクライナ・ロシア友好協力条約でも、ロシアはウクライナの国境と領土統一を認め、ウクライナの安全を脅かすようなことをしないと明記されている。 つまり、ロシアは1991年時点で、クリミア半島のウクライナ帰属を認めただけではなく、その後、何度もウクライナに対して領土的主張がないことを表明し、更にウクライナの国境や領土統一を守る義務を、国際条約によって負っているのである。 以上のことから、クリミア帰属について、領土問題は存在しないことが明確である。従って、クリミアの管轄が移譲された1954年の経緯は、現在の国際関係や国際法には何の影響もない。だから、ロシアは元々持っていた領土を戻しただけだという理屈が通用しない。
「クリミアはロシア領」と認めれば北方領土が戻ってくる?
因みに、日本においてはこういう意見もあるらしい。すなわち「日本は、クリミアがロシアの領土だと認めれば、かつて持った領土を取り戻したという理屈で北方領土を取り戻すことができるのではないか」ということである。 まず言いたいのは、仮にそうだったとしても、自国の利益の為に他国が犯した蛮行を認めるのが倫理的にどうか、ということだ。このようなことを言う人は正義感というものはないのか、というのは私の意見だ。 しかし、実際に重要なのは、このような主張は現実と真逆だということである。日本は北方領土を取り戻したいのであれば、クリミア半島のウクライナ帰属を強く主張することが、日本の立場を有利にするのである。 実際、もし日本が「クリミアはロシアの領土である」と認めた場合はどうなるのか。それは日本は力による領土強奪、国境変更を容認することになる。それは北方領土を日本から強奪したロシアの行動が正当という意味である。つまり、もしクリミア半島の占領と併合が認められるのであれば、北方領土の占領と併合を認めない理由もなくなるのである。 しかし、力による国境変更を認めないのであれば、北方領土はロシアに不法に占領されたという立場は一貫され、日本が北方領土返還を求め続けることは正当となる。 重要なのは、昔はどうだったか、ではなく、今はどうなのかということである。今はクリミア半島はウクライナの領土。同じく今は北方領土は日本の領土である。北方領土返還のために、この立場を一貫しなければならない。
大多数の住民が他国への編入を望むからといって侵略していいのか
そして二つ目のパターン、つまり「クリミア半島に住んでいる人の大多数はロシアへの編入を望んだ」についても考えたい。このような理屈は国際関係には通用しない。ある地域の住民の過半数が帰属国を変えたいというだけの理由で、その領土を奪っていい理由はならない。このような規定はどこにもない。このような主張を認めれば、本当に何でもありの世界になってしまう。 具体的に言えば、それは「人口侵略」を可能にする。例えばA国の人がB国のある自治体に大量に移住し、そこで参政権を取得したとしよう。そうすれば、そのうちA国は、「B国内の○○地域の住民の過半数は我が国への帰属を望んでいるから、我が国は○○地域を編入する」という主張を可能にする。 もしくは単純に、A国の国営企業がB国内に広大な土地を買い取って、そこでA国の人を住まわせる。そして同じように、A国は「そこの住民の大多数は我が国への帰属を望んでいるのでこの地域を併合する」ということも論理上可能になる。 このようなことが起こらないために、地域の世論だけで帰属国を変更することは国際的に認められていないし、認めてはいけないのである。
なぜ帰属問題に関係のない話を持ち込むのか
以上のように、クリミア半島はウクライナの領土であるということが疑いようのない事実であり、それについては問題が存在しない。だから現在クリミア半島を不法占領しているロシアは、それを無条件にウクライナに返還しなければならない。 それにもかかわらず、クリミアの帰属を考えるときに、歴史やウクライナへの委譲の経緯、またはクリミア半島の人口構成といった、帰属問題に関係のない要素を持ち込もうとする人達がいる。 私はこれらの要素は帰属問題に関する議論に持ち込むべきではないと認識しているのだが、どうしても、クリミアの歴史と民族構成について気になる人もいるようなので、次回、この問題についても解説することとする。
【グレンコ・アンドリー】
国際政治学者。1987年、ウクライナ・キエフ生まれ。2010年から11年まで早稲田大学で語学留学。同年、日本語能力検定試験1級合格。12年、キエフ国立大学日本語専攻卒業。13年、京都大学へ留学。19年3月、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程指導認定退学。アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門優秀賞(2016年)。ウクライナ情勢、世界情勢について講演・執筆活動を行なっている。著書に
『ウクライナ人だから気づいた日本の危機――ロシアと共産主義者が企む侵略のシナリオ』
、
『日本を取り巻く無法国家のあしらい方――ウクライナ人が説く国際政治の仁義なき戦い』
(以上育鵬社)など。
グレンコ・アンドリー
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌
『明日への選択 平成30年10月号』
(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。
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『
日本を取り巻く無法国家のあしらい方――ウクライナ人が説く国際政治の仁義なき戦い
』
ストーカー=韓国 チンピラ=北朝鮮 マフィア=ロシア ヤクザ=中国 無法国家に囲まれた日本に、ウクライナ人が仁義なき戦い方を説く!
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