日本を救う港湾インフラ・イノベーション:「基幹航路」を守り、日本を守る4
「基幹航路」の喪失は、大きな経済被害をもたらす
ところが、基幹航路がなくなってしまえば、欧米と日本の間の航路はすべて、釜山や上海などの外国の港を通る「積み替え経由便」だけになる。 そうなると船会社たちはもう、かつて存在していた「基幹航路」の安い料金を気にせずに、日本人相手の航路の料金をいくらでも好きに上げていくことができる。 その結果、当該料金が一つのコンテナ当たり約3000ドルから1.3倍以上の4000ドル程度へと、1000ドルも値上げするのではないか、と指摘する船会社の意見もあると言う。 毎年大量の貨物が往来している欧米との間の輸出、輸入のそれぞれで船の輸送料金が1.3倍以上にもなれば、日本経済に巨大な打撃をもたらすことは必至となるのである。基幹航路の喪失の経済被害は年間「約3 兆円」
このように、「基幹航路」がなくなれば、直接・間接に貿易コストが上昇していき、それが日本経済に大きな打撃を与え、日本人の家計と日本企業の双方に大きな被害をもたらすことになる。ただし、こうした被害は、さらなる連鎖的被害をもたらす。 そもそも輸出入コストが高くなれば、貿易関連企業が日本でビジネスを続けることのメリットが低減する。結果、多くの企業がより貿易コストの低い海外へと日本から流出していくこととなっていく。 言うまでもなく、企業の海外流出は、結局は日本の「雇用」の喪失を意味する。 その水準は1.6万人に上るとの試算もある(国交省港湾局資料より)。これだけの雇用が失われれば、日本国民の所得がトータルとして縮小し、消費水準も低迷することになる。 同時に、企業が流出すれば、日本国内での民間投資が縮小していく。その縮小幅は、年間4000億円程度となるのではないかとの試算もある(国交省港湾局資料より)。 このように、基幹航路がなくなるだけで、貿易コストが高騰し、その結果として、企業が海外に流出して雇用が失われることとなると同時に、日本国民の所得もまた貿易コストの形で海外に流出するとともに、海外マーケットでの日本製品の競争力が低下していくことになるわけである。 筆者はこうしたさまざまな「経済被害」をいくつかの簡単な前提で試算したところ、「基幹航路がなくなる」というだけで、年間2.9兆円もの経済被害が生ずるとの結果となった(なお、乗数効果という数字を最も低く見積もって1とした場合でも2兆円程度となる)。 年間2.9兆円と言えば、消費税が1%上昇した時にもたらされる景気停滞インパクトに等しい。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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