日本を救うインフラ・イノベーション:「基幹航路」を守り、日本を守る5

基幹航路の喪失の経済被害は年間「約3兆円」

 1997年や2014年の経験から、2%や3%程度の消費税の増税が、日本経済に極めて深刻な打撃を及ぼし続けていることは、定量的なマクロ経済分析によってさまざまな角度から明らかにされている。  だが、その半分程度の景気停滞インパクトが、基幹航路がなくなるというだけでもたらされるのである。  すなわち、基幹航路をなくしてしまうということは、「日本中から消費総額の1%程度の資金を集めて、外国の港や船会社にばらまく」というような愚か極まりない対策に等しいのである。  国益のためには、何としてでも基幹航路を守り抜かねばならない。

港湾投資が日本を救う

 今政府では、こうした「巨大被害」を回避するためのさまざまな取り組みを進めている。その根幹に位置しているのが、港湾埠頭の「深化」である。  2000年代中盤から、世界の最大のコンテナ船は18mの水深を必要としていた。  しかしわが国には、長らく16mが最も深い港であったため、世界最大規模の船を受け入れることができなかった。先にも指摘したがこれこそ、基幹航路が失われていった最も重要な理由であった。  この問題に対処するため、平成19年度から、18mの岸壁を整備する事業が1500億円の費用を投入することで進められた。そして、平成27年にようやく18mの水深の岸壁が、横浜港に完成することとなった。  今この事業はさらに継続されており、現在供用されている岸壁が、平成32年度までに2倍に拡張される予定となっている。  なお、基幹航路がなくなれば、1年当たり2~3兆円程度の経済損失が生まれることが危惧されている以上、1500億円程度の投資金額は決して「高い買い物」なのではなくむしろ「安い買い物」だ。  さらに、より多くのコンテナが取り扱えるように、横浜港には新たな「荷さばき施設」や「倉庫」が民間主導(三井倉庫㈱)で作られると同時に、最新式の情報機器を活用して、コンテナの流れの効率化がさまざまに進められている。  こうした民間施設には公益性が一定程度以上あることから、「貸付金」等の形で国費が投入されている。これらのコンテナ物流の効率化や大規模化が、基幹航路の維持のみならず、下記のような「新規開設」をもたらしている。  さらに、国が出資した港湾運営会社である「横浜川崎国際港湾㈱」が国内外からの集貨事業に取り組んだ結果、平成28年3月時点で1週間で33便程度であった東日本諸港から横浜港へ接続する航路の便数が平成29年6月時点では10便/週増え、43便/週にまで拡大し、東日本地域との間の内航ネットワークが強化されている。  また、平成30年度現在では経済成長著しい東南アジア地域を発着する貨物の集約にも取り組んでいる。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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