日本を救うインフラ・イノベーション:「基幹航路」を守り、日本を守る6

港湾投資が日本を救う

 このようにして国内外からより多くの貨物が集まる体制となれば、大型の貨物船による「基幹航路」が京浜港にやってくることも可能となる。  このような官民一体となった「ハード」と「ソフト」の取り組みによって、より大量の貨物をより効率的に扱うことが可能な状況となっていった。  その結果として、平成29年4月から、新しい北米との基幹航路が開設されるに至ったのである。繰り返すが、基幹航路の喪失は日本経済に深刻な影響をもたらす。  その点に鑑みれば、港湾の大深度化を中心とした官民合わせたさまざまな取り組みは、日本経済の繁栄のために必要不可欠なのである。  そもそもグローバル化の中、世界中の港湾は「イノベーション」を繰り返し、どんどん大型化、高度化していった。それに合わせて、世界中の船会社は船のサイズをさらに大型化し、物流コストを引き下げていった。  そうやって日本では「失われた20年」と呼ばれた間に、世界の貿易のインフラは、全く異なる次元のものへのイノベーションを果たしていった。  一方で、わが国日本は、世界の流れに完全に取り残される形で、投資やイノベーションが立ち後れ、古くて小さい一昔前のサイズの船を取り扱い続けた。  その結果、日本は国家繁栄の基盤である「基幹航路」を、わずか20年の間に三分の一にまで激減させた。この事実は、日本が如何に、港湾に対して十分な投資をしてこなかったのかを明らかに証明している。  しかしそんななか、わが国はようやくわずかに、港湾のイノベーションを世界の潮流に合わせて手がけ始めた。もちろん世界の超大型化の流れの中では、その投資速度はまだまだ高いものではない。  しかし、ようやく新しい基幹航路が設置されるに至ったのは、日本の「逆襲」において象徴的な意味のある成果であると言うことができるであろう。 「島国日本」において、世界との接合部である港湾への投資は、昔も今も重要であり続けている。わが国の経済がこれ以上衰退しないためにも、そしてさらに発展していくためにも、今一度世界から後れを取り始めているこの事態をしっかりと把握する。 「追いつけ追い越せ」の状況に好むと好まざるとにかかわらず追い込まれている現実を過不足なく認識し、一歩一歩、港湾のイノベーションを果たしていかねばならない。  わが国がしっかりと将来を見据え、理性的な港湾投資を可及的速やかに進められんことを、心から祈念したい。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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