空港がもたらす地域イノベーション:「虚構」の空港バッシング1
静岡・茨城空港は「開業前」にムダだと激しく批判された
今、筆者の手元には、2008年12月26日発売の写真週刊誌『フライデー』の「検証! 誰も乗らない使わない…開業予定の『静岡』『茨城』は必要なのか!? 血税タレ流し『赤字&ムダ!』なトンデモ地方空港の実態」と題した記事がある。 2008年12月と言えば、公共事業を徹底的に批判する「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた民主党が、世論の絶大な支持を受けて政権を奪取した総選挙のわずか8カ月前。 すなわち公共事業バッシングが最も激しく展開されていた頃の記事だ。この記事では全国の地方空港はほとんど使われていないムダなものばかりで赤字を垂れ流している、にもかかわらず政府は愚かにも静岡や茨城にまたムダな空港を作ろうとしていると激しく政府を批判している。 あるいは、国内最大手のビジネス週刊誌『週刊ダイヤモンド』では、民主党政権誕生から3カ月後の2009年12月12日に「空港 国内路線ゼロで視界不良の茨城、粗製乱造された地方空港の末路」という記事を掲載している。その趣旨は先とほぼ同じで、地方空港はムダに作られ続けており、翌年に開業する茨城空港も同じくムダなものとなるだろう、というもの。 しかもそんなムダな茨城空港ができるのは「政官業の歪んだ関係に起因(55頁)」しているからだと断じ、「地元への利益誘導に躍起となる政治家と権限を握る役人(55頁)」たちが「癒着」し、その「しわ寄せ」が利用者に降りかかっているのだと、茨城空港を作ること、ならびにそれを進めた関係者を激しく批判している。 挙げ句にこの一連の記事の中で、こんなムダな空港を作ろうとする悪しき風潮を「葬り去らねばならない」と断じている。静岡・茨城の両空港はまったく「ムダ」ではなかった
こうした論調はさまざまなメディア上で繰り返されたのだが、そんな激しい批判に晒された「茨城空港」や「富士山静岡空港(以下、静岡空港)」は今どうなっているのかと言えば、いずれも60万人以上の利用者で賑わっており、「ムダ」とはほど遠い状況が実現している。 静岡空港路線数や便数が増えていったのは、もちろん民間の飛行機会社が茨城空港で十分にビジネスが成立すると判断したからだ。 どう考えても、茨城空港もまた、ムダとは言えない状況にある。さらに、かつての週刊誌記事では「血税タレ流し」と言われていたが、手元のデータを見れば少なくとも2015年においては、両空港とも支出よりも収入の方が上回る「黒字」経営となっている(静岡空港は約0.9億円の黒字、茨城空港で1.8億円の黒字)。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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