空港がもたらす地域イノベーション:「虚構」の空港バッシング5

「小さな街を一つ生み出す」ほどの経済効果をもたらした静岡空港

 こうした「空港の多面的効果」をすべて累計するとどれくらいの水準になるのかということについて、静岡県がこの静岡空港について試算している(静岡県「富士山静岡空港の概況」参照)。  その計算によると、静岡空港ができたことで雇用が2150人、それを通して地域の人々が受け取る所得は合計で約80億円、それぞれ増えたと試算している。  2150人の雇用と言えば、子供や配偶者も入れれば5000人から7000人程度を養い、生活を支えることができるほどの水準だ。  だからこれはつまり、空港が一つできたことで静岡県に(大人から子供まですべての人口を含めた)小さな街が一つでき上がったに等しい効果がもたらされたことを意味している。  一方「産業」に対しては312億円の活性化効果をもたらしたと試算されている。つまり、空港ができたことで、アクセス交通や物流、運輸などの関係産業の各企業の「売り上げ」が300億円以上も増えたわけである。 (なお、この300億円の売り上げ増もまた、新たな「雇用」や「所得増」をもたらしているため、雇用創出効果、所得増加効果は先に紹介した2150人等よりさらに大きな数値となろう)  これだけ所得が増え、各企業の収益が上がれば当然、政府の税収が増えるわけだが、その水準は年間21.4億円に達すると試算されている。  言うまでもなくこれらの効果はすべて空港を作ったことの「便益」だ。繰り返すが、これらはすべて空港の運営法人が赤字か黒字かという単眼的な評価尺度に反映されることはない。  しかも、これらの何十億円、何百億円という金額に比べれば、先に紹介した空港運営会社の黒字額0.9億円は、実に小さな水準だ。  つまりビジネスを考えるにあたって、「総売り上げ」から「総費用」を差し引いた「利益」というものは、金儲けをしたい経営者から見れば極めて重要ではあるのだが、「社会的意義」を考えるうえではほとんど意味のない尺度なのである。  冒頭で紹介した地方空港に対する「血税タレ流し批判」なるものが、「何重もの意味」で如何に不当な誹謗中傷であったかを、このことからも容易くご理解いただけるのではないかと思う。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
おすすめ記事
おすすめ記事