空港がもたらす地域イノベーション:「虚構」の空港バッシング6

空港は、国際貿易を支えるものでもある

 ところで「空港」といえば、多くの人々が「旅客」をイメージするだろうが、実は今や、空港は日本の「国際貿易」にとってなくてはならない存在となっている。  そこで、日本の国際貿易の「船」と「飛行機」のシェアから読み解いてみる。まず「重量」ベースでみると、輸出も輸入もともに、ほぼ100%が海上輸送、すなわち「船」が使われている。  飛行機のシェアはほぼゼロである。ところが「金額ベース」でみると、航空運輸のシェアは輸出も輸入も3割近くの水準にまで達しているのだ。  船の輸送は重いものを大量に安く運ぶことができるが、輸送に何日も、何週間もかかってしまう。ところが飛行機は重いものを大量に運ぶことはできないが、どれだけ遠くてもたった数時間から十数時間程度で運ぶことができる。  だから軽くて高価なもの、例えば集積回路や半導体、電話機、液晶デバイス、医療用機器などの輸出入に飛行機が頻繁に使われ、その総計金額が、交易全体の3割近くにまで達しているのである。  つまり今や空港は、海の港と同様に、日本の貿易にとって必要不可欠なものになったのである。

空港が形成する「港町」

 横浜や神戸は日本を代表する港町だが、今や「成田」もまた、新しい「空の港町」と化しつつある。  今、成田空港は、空の貿易の半分以上(56%)を占めている。  空の貿易量は全体の3割弱を占めているのだから、金額ベースで言うなら成田空港は今、日本の貿易量全体の実に25%以上、つまり貿易全体の四分の一以上を占める「巨大国際貿易港」となっているのである。  そうなれば神戸や横浜と同様に、大量の民間の「物流施設」が空港周辺に作られることになる。  実際今、成田空港の周辺には39社の民間企業が41カ所もの物流施設を作っており、その倉庫の延べ床面積も45万平米に達している。  さらには、同じく神戸や横浜と同様、貿易物資を利用した工場等もまた、「港」周辺に作られていくことになる。事実今、成田空港の周辺には4つもの工業団地が形成されるに至っている。  言うまでもなく、これだけ大量の物流施設や工場を運営するためには、大量の労働力が必要なのだから、結果的に成田空港は成田という土地にて大量の「雇用」(その規模はおおよそ1万人を超えている)を生み出し、それを通して地域の人々に「所得」をもたらしているわけである。  そしてその労働者の一定数は成田周辺に居住することから、「定住人口」もまた増加することとなる。  つまり、空の国際港としての成田空港がもたらす「貿易」が、地域に産業と雇用と定住人口と所得をもたらし、成田は今や空の「港町」となったのであり、空港が成田の地域を根底から改変する地域イノベーションをもたらしたのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『令和版・公共事業が日本を救う』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)など多数。
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