空港がもたらす地域イノベーション:「虚構」の空港バッシング7

「物流」でも活躍する地方空港

 さて、こうした空港物流による地域活性化効果は成田において顕著であるが、他の空港においても大なり小なり見られている。  例えば関西空港の航空貨物の取扱量は、国内の全航空貨物の五分の一強あり、これが空港周辺の産業を活性化する効果をもたらしている。そして那覇空港、福岡空港などもまた、国際交易に直接活用されている。  ただし地方空港は、直接海外との貿易よりも「国内輸送」のためにより多く活用されている。  例えば、先に紹介した静岡空港は、全体で1200tの航空輸送を取り扱っているがその8割程度が「国内」輸送である。  そもそも「船」を使った貿易では、全国の各地方港からいったん小さな船で神戸、横浜などに荷物を集めたうえで、より大きな船で海外へ輸送するという「ハブ&スポーク」の方式が採用されるが、航空貿易でも同様だ。  つまり全国の各地方空港からいったんハブとなる「成田」「関西空港」などの国際拠点空港に荷物を輸送したうえで、まとめてより大きな飛行機で拠点空港から海外へと輸送しているわけだ。  国内での飛行機輸送は、こうした「ハブ&スポーク」の貿易輸送も含めて(リーマンショック以降、横ばいになりつつあるものの)年々拡大し、今日では海外への輸送量の2~3倍の規模に達している。  旅客に加えてこうした物流の需要拡大を通して、それぞれの地域空港の重要性は今日、かつてに比してますます拡大しているのである。  新たな時代に向けて、空港による地域イノベーションをかつて新しい地方空港には激しいメディア批判があったものの、いざフタを開けてみれば、「人流(旅客)」についても「物流(貨物)」についてもさまざまに活用され、地域の雇用を生み出し、人口増や地域経済の活性化をもたらし、商業施設や倉庫施設などの新たな投資を誘発していった。  つまり、当時の空港バッシングは単なる「濡れ衣」に過ぎなかったわけである。だから、今日においてすらしばしば見られるマスコミによる公共事業バッシングに対しては、いわゆる「リスクリテラシー」をしっかりと持ち、場合によっては話半分程度に受け取りながら、冷静かつ客観的に分析、解釈──するという態度が今、国民側に求められているのである。  一方、空港需要が近年増加した背景には、安価なLCC(ローコストキャリア)や外国からの観光客(インバウンド)が増えたことで航空需要それ自体が増加したこと、さらには貿易の金額ベースで3割近くもの水準にまで航空物流が本格化してきたことなどがあったわけだが、今後わが国の「デフレ脱却」が本当に叶い、国民所得が本格的に増加していく局面を迎えれば、空港利用を求める需要はさらに拡充していくこととなるだろう。  だからこそこうした新たな状況に対応するためにも、マスメディアからの理性的な批判にはしっかりと耳を傾けつつも、不条理な誹謗中傷に対しては事実情報に基づいて適切かつ毅然と反論しながら、航空物流の拡充やデフレ脱却などの新しい潮流を見極め、各地の空港の整備と運用をさらに高度化しつつ、空港を通した良質な「地域イノベーション」を全国各地で積み重ねていくことが、日本各地の地方の創生や日本の国力の増進のために今、強く求められているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『令和版・公共事業が日本を救う』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)など多数。
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