ニューヨーカーが狂喜した“グラハム現象”――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第20回

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 1977年4月30日、“スーパースター”ビリー・グラハムはメアリーランド州ボルティモアでブルーノ・サンマルチノを下し、WWWFヘビー級王座を獲得した。タイトル移動という大きなドラマのロケーションがマディソン・スクウェア・ガーデンでなかったことがかえってニューヨーカーのイマジネーションをくすぐった。

グラハムがWWWF王者となったことで、ベビーフェースのチャレンジャーがヒールのチャンピオンに挑戦するというまったく新しい図式が生まれた。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

グラハムがWWWF王者となったことで、ベビーフェースのチャレンジャーがヒールのチャンピオンに挑戦するというまったく新しい図式が生まれた。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

 ボルティモアでの突然のチャンピオン交代劇の5日まえにおこなわれたガーデン定期戦(同4月25日)のメインイベントでは、サンマルチノはバロン・フォン・ラシクの挑戦を退けWWWFヘビー級王座防衛に成功していた。グラハムはその日、なぜかガーデンのリングには姿を現さなかった。

 グラハムが両足をセカンドロープに乗せての“反則エビ固め”でサンマルチノからベルトを奪いとった問題のシーンは、翌週放映分のTVショーでニュース・アイテムとしてリポートされた。

 トリックプレーによる不正なフォール勝ち、レフェリーのミス・ジャッジによる王座移動といったいささか不可解なシチュエーションがグラハムのヒールとしてのキャラクター・イメージをいやがうえにも巨大化させたていった。

 ビンス・マクマホン・シニアにほんのちょっとの計算ちがいがあったとしたら、それは典型的なヒールのグラハムが“生ける伝説”サンマルチノにもひけをとらないくらいの観客動員力を持つ、文字どおりのスーパースターだったということかもしれない。

 いわゆるヒールのグラハムがチャンピオンベルトを腰に巻いたことで、そのチャレンジャーには必然的にベビーフェースのトップスターが抜てきされるというおもしろい逆転現象が起きた。

 1977年5月から1978年2月にかけてのガーデン定期戦のメインイベントではゴリラ・モンスーン(同5月16日)、サンマルチノ(同6月27日と同8月1日)、アイバン・プトスキー(同8月29日)、ダスティ・ローデス(同9月26日と同10月24日)、ピーター・メイビア(同11月21日)、ミル・マスカラス(同12月19日と78年1月23日)、ボブ・バックランド(78年2月20日)といったベビーフェースのトップスターたちがつぎつぎとWWWF王座に挑戦していった。

 グラハムはこの10カ月間のガーデン定期戦のうち9大会をソールドアウトにし、サンマルチノ(2回)、ローデス(2回)、マスカラス(2回)、バックランドとのタイトルマッチ7試合はガーデンのおとなりのフェルト・フォーラム劇場でのクローズド・サーキット上映版も満員札止めにした。

いまでいうところのフォトジェニックなスーパースターだったグラハム。アメリカの専門誌の表紙を毎月のように独占した。(写真は『レスラー』1997年9月号と12月号のカバーから)

いまでいうところのフォトジェニックなスーパースターだったグラハム。アメリカの専門誌の表紙を毎月のように独占した。(写真は『レスラー』1997年9月号と12月号のカバーから)

 ベビーフェースのチャレンジャーがヒールのチャンピオンに挑戦するというまったく新しい図式は、それまでサンマルチノ対ヒールの因縁ドラマという定番パターンだけを観てきたニューヨークの観客の目に新鮮なものに映った。

 ガーデン定期戦での“プレミア上映”だけでなく、ボストン、フィラデルフィア、ボルティモア、ワシントンDCといった東海岸エリアでの“ロードショー公開”でもグラハムの観客動員力はとどまるところを知らず、各地の興行収益記録を塗り替えつづけた。

 グラハムがチャンピオン、サンマルチノがチャレンジャーというパラドックス的なシチュエーションは、ライブの観客に「今夜、ここで王座移動が目撃できるかもしれない」という幻想を抱かせた。しかし、グラハムはあくまでもヒールらしくありとあらゆるダーティな手段でベルトをキープしつづけた。

 しかし、こういった“グラハム現象”とはうらはらに、古典的かつ伝統的なベビーフェース対ヒールの勧善懲悪ドラマにだれよりもこだわったのはビンス・シニアだった。じつは、ビンス・シニアにとってグラハムはほんの“リリーフ”でしかなかった。

 “次世代の主人公”となるレスラーは、すでにWWWFのリングにまぎれ込んでいた。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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