グラハムの“反則エビ固め”in ボルティモア――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第19回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第19回


 “スーパースター”ビリー・グラハムは、ビンス・マクマホン・シニアの描いた緻密なシナリオどおり、1977年3月にWWWFのTVショーに登場した。前年1976年1月から4月にかけて約4カ月間、WWWFでの長期ツアーを経験しているグラハムにとっては、これがニューヨーク・ニューヨークでの再デビューだった。

典型的なヒールなのに、ものすごい観客動員力を持っていた“スーパースター”ビリー・グラハム。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

典型的なヒールなのに、ものすごい観客動員力を持っていた“スーパースター”ビリー・グラハム。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

 41歳になったWWWFヘビー級王者ブルーノ・サンマルチノは、マディソン・スクウェア・ガーデン月例定期戦でのブルーザー・ブロディとの連戦シリーズ(1976年9月4日、同10月4日)にひとまずピリオドを打ったあとは、“古豪”スタン・スタージャックとの2連戦を消化(同11月22日はスタージャックがカウントアウト勝ち、同12月20日はサンマルチノがKO勝ち)。

 翌1977年1月からは元オリンピック重量挙げ代表選手(1972年=ミュンヘン大会)のケン・パテラとの連戦シリーズがスタートし、ガーデン定期戦での第1戦(同1月17日)ではパテラがサンマルチノにカウントアウト勝ち。

 テキサス・デスマッチ・ルールでおこなわれた第2戦(同2月7日)は、両者流血、レフェリー失神の大乱戦モードのままノーコンテスト裁定。完全決着戦としておこなわれた3度めの対戦(同3月7日)は、パテラの大流血によるレフェリーストップというきわどい判定で試合がストップされ、ゲスト・レフェリーのゴリラ・モンスーンがサンマルチノの右手を上げた。

 新作映画の“プレミア上映”にあたるガーデン定期戦でのタイトルマッチ・シリーズで、なぜかサンマルチノはニューカマーのパテラからついにいちどもクリーンなピンフォール勝ちをスコアすることなくこの因縁ドラマに幕を下ろした。

 “怪力”サンマルチノと“怪力”パテラの対決はいかにもニューヨークのファンが好みそうなマッチメークではあったが、サンマルチノの体力的な衰えはすでにだれの目にも明らかだった。

 サンマルチノからグラハムへのタイトル移動の“歴史的シーン”は、やや意外な場所で起きた。その日、メアリーランド州ボルティモアのシビックセンターのリングにはサンマルチノがいて、グラハムがいて、パテラがいた。オープニング・マッチには“5000ドル争奪”16選手出場バトルロイヤルがラインナップされていた。

 第1試合開始直前にリングに上がってきたグラハムは、マイクをつかみ「バトルロイヤルには出場しない。タイトルに挑戦させろ」とアピール。サンマルチノのマネジャー、アーノルド・スコーランがこれを受諾し、急きょメインイベントでサンマルチノ対グラハムのWWWFヘビー級選手権がおこなわれることが決定した。

ニューヨークをはじめ、東海岸エリアの主要都市の各アリーナをソールドアウトにしたサンマルチノ対グラハムのWWWFタイトル戦。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

ニューヨークをはじめ、東海岸エリアの主要都市の各アリーナをソールドアウトにしたサンマルチノ対グラハムのWWWFタイトル戦。(撮影=ジョージ・ナポリターノ)

 ボルティモアのライブの観客はこの“ハプニング”を喜んだ。サンマルチノ対グラハムのタイヨルマッチは、リング中央での手四つの体勢からの力くらべでスタートした。サンマルチノはほとんど技らしい技を使わず、パンチとキックとベアハッグだけで試合を組み立てた。グラハムの得意技もまたパンチとキックとベアハッグだった。

 ――コーナー・サイドの攻防で、グラハムがサンマルチノの両足をすくって正面からのエビ固めのポジションに入った。次の瞬間、グラハムはセカンドロープに両足を乗せた。完ぺきな“反則エビ固め”だった。レフェリーはそのままキャンバスを3回、たたいた。試合タイムは13分43秒。チャンピオンベルトがグラハムの手に渡った。

 サンマルチノは、通算11年2カ月にわたりキープしてきたWWWFヘビー級王座からついに転落した。完全なフォール負けではなく、レフェリーのミス・ジャッジによる不可解な判定になっていたところが――サンマルチノを愛したファンにとっては――救いといえば救いだった。

 もちろん、“ブルーノ信者”は怒りまくった。グラハムは、リング内に投げ込まれるビールやコーラの缶、ボトル、紙くずをベルトではらい落としながら脱兎のごとくリングから退散した。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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