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塩塚博氏の駅メロ作曲テクニック「小さな違和感を残す」

 日本で日常、最も聞かれている音楽がある。音楽好きはもちろん、音楽にまったく興味がない人ですらしばしば聞いている曲。それは駅メロである。駅メロ作曲者の中でも、特に多数の駅の曲を手掛けて“巨匠”とされている塩塚博氏のトーク&ライブイベントに行ってきた。駅メロの歴史や裏話あり、即興駅メロ作曲ありの模様をレポートする。

イベントは東京カルチャーカルチャーにて開催された

 前半のトークパートでは、塩塚氏を中心に、鉄道好きとして知られるミュージシャン・オオゼキタク氏、駅メロ楽譜集『鉄のバイエル』の著者・松澤健氏といったゲストたちが、鉄道及び駅メロトークに花を咲かせる。塩塚氏が「駅メロの発端となったのは1989年3月に、JR新宿駅と渋谷駅で使われたヤマハ製の曲で」と言うと、すかさず松澤氏が目の前のキーボードで弾いて再現。もう20年以上前のことだが、改めて聴くと“そういえばあったあった”と思わず頷く。駅メロは最高の“あるあるネタ”だ。  イベントでは、多数の駅メロ豆知識も語られた。 ◆JRは「発車メロディ」。京急は「接近メロディ」  その名の通り、電車が発車するときに流れるのが発車メロディで、接近するときに流れるのは接近メロディと呼ばれる。例えば都内では京急が15~20秒の接近メロディを採用しており、その駅にゆかりのある“ご当地メロディ”も多い。 ◆東京メトロの駅メロは7秒  JRにはメロディを途中で止める車掌がいるが、メトロは「メロディが流れ終わってから自動的にホームドアが閉まる」という一連の動作が決まっている。そのため、曲の長さがまちまちなJRと違い、ほぼ7秒程度で作られている。  ちなみに、鉄道ファンの間では、JRなどでメロディを途中でブツッと止める車掌のことを“即切り車掌”と呼ぶ。 ◆塩塚氏作曲の「SHシリーズ」は後から慌てて曲名を決めた  東京駅や渋谷駅などの都心から、熱海駅や勝浦駅まで、多数の駅で20年前から使われ続けている「SHシリーズ」という曲だが、納品当初は曲名は特についていなかった。’90年代後半に着メロ配信が決まってから、慌てて名付けたとのこと。SHは、塩塚博のイニシャルが由来。 ◆御茶ノ水のメロディは「御茶ノ水サルサ」と呼ばれ親しまれている  御茶ノ水で流れる曲の名前は「JR-SH9-1」だが、そのロックでポップな明るい曲調から、「御茶ノ水サルサ」と愛称がつけられている。この曲はJRの御茶ノ水駅2番線(三鷹方面)のみでしか使われていない。 ◆塩塚氏の作曲する発メロは、少しの緊張感を煽る工夫が凝らされている  発車メロディは、「電車が発車しますよ」というお知らせをするのが目的だ。あまりに気持ちのいい聞き心地だと、危機感が生まれない。そのため、「転調」や「偽終止」といった作曲テクニックを盛り込み、音楽的に気持ちのいい範囲での“小さな違和感”を残す曲になっているのだという。  そして、イベント後半では、塩塚氏が実際に童謡の『こいのぼり』を即興で駅メロにアレンジしていくコーナーが始まった。その様子の一部がこちらの動画である。 ⇒【動画】はコチラ https://nikkan-spa.jp/447284
 目の前で作られる様子を見ながら、観客はTwitterでこの曲を使うなら○○駅!とツイートして盛り上がる。中には、作曲テクを目の当たりにし、「塩漬け」「塩分が強すぎて……!」といった具合に塩塚氏の名前ならではの称賛コメントを寄せていたファンもいた。 「駅メロを作るときは、毎日駅で流れても鬱陶しくないように、また、ホームの隅々までメロディを届けるためにも、あまり音数を使いすぎず、贅肉をそぎ落として絞りまくったアレンジをするのが塩塚流なんです」などと言いながら、即興駅メロはみるみるうちに出来上がった。  大多数の人が聞き流している駅メロは、シンプルで長く親しまれる曲にするために、“敢えて聞き流すように”仕向けられていたのだ。乗車を促すという使命を果たすために目立ちすぎず縁の下の力持ちであり続ける駅メロの魂は、気高く、そして少し切ない。 ⇒【写真】トーク&ライブイベントの様子はコチラ
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=447287
<取材・文/朝井麻由美>
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