「名前が思い出せない…」40代から始まる物忘れ、実は“脳の進化”だった
最近、物忘れが激しい――。固有名詞や芸能人の名前が思い出せず、ショックを受け、自分の老いを感じて愕然としたことはないだろうか。しかし、「物忘れは、脳の進化においては当然のこと」と語るのは、脳科学者の黒川伊保子氏だ。その最大の理由は、「60代頃になると、人間は『気づきの天才になるから』」と黒川氏は続ける。
60歳のトリセツ』(黒川伊保子著)。本書から、40代から始まる物忘れへの心構えやその対処法を紹介したい(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。
さて、迷いと惑いの失敗適齢期=30代をくぐりぬけると、待っているのは「物忘れ」だ。40歳前後になると、誰の脳でも、物忘れが始まる。
でもね、憂うことはない。物忘れは、老化ではなく進化である。
30代、失敗と成功を積み重ねるうちに、脳には、生きていくために有効な優先順位が出来上がってくる。「とっさに信号を流すべき回路」とそうでない回路に、分かれていくわけ。そして、そうでない回路の先にあるものは、とっさには思い出せないのである。それだけのことだ。
脳内には、天文学的な数の回路が内在している。とっさに選べる回路が多ければ惑い、少なければ惑わない。「とっさに惑わず、腹落ちする答えが出る脳」になるには、かなり失敗を重ねて、絞り込む必要がある。その域にまで達するのに、40年かかるってことだ。けっして、「28歳から老化を始めた脳が、とうとうボケてきた」わけじゃない。
孔子は、「四十にして惑わず」と言った。これって、天下の孔子でさえ、30代までは惑ったということなのよね。その上、四十にして惑わなくなった以上、孔子でさえ、物忘れが始まったはずだ。脳は、「惑わない」と「物忘れ」がセットになっているから。
40代は、物忘れが進むと共に、惑わなくなる10年間である。自分の脳の中に、核心とての答えが降りてくる。仕事では頼りにされ、子どもたちは受験期を迎え、責任はますます重くなってくる年代だ。
さて、その物忘れ。60代になると、忘れたことも忘れているので、けっこう気にならなくなってくる。それでOKなのである。たまに、あまりの物忘れに唖然とするけど(2階に上がったけど、何を取りに来たんだっけ……?)、それもご愛敬だ。前にも書いたけど、そのうち、一般名詞も忘れて、その用途も忘れるけど、それも恐れることはない。
いずれにしたって、脳が忘れるのは、「人生に必要がない」と脳が判断したから。脳にしたがって、のんびり生きていこう。
あるとき、上越新幹線に乗ったら、私の斜め前の席で、60代と思しき4人の女性グループが、楽しそうにお弁当を開いて談笑していた(コロナ前のことである)。そのうち一人が「ほらあの女優、ダンスの映画に出てた。で、監督と結婚した……」と言い出した。
向かい合った二人が応じるのだけど、「あ〜、わかるわかる。バレエの人! あの社交ダンスの映画、なんてタイトルだっけ……」「○○さんの好きな俳優も出てたよね、面長の。え〜っと、何て名前だったかな。その人が出ていた時代劇が面白くてさ……あれ、なんて言ったっけ、あの時代劇」と、謎は広がるばかりで、誰も何も思い出せない。大宮駅を過ぎた辺りだった。その後、他の話を挟んで、何度か思い出そうとするのだけど、結局、みなさん、新潟まで思い出せなかったのである。
なんて、チャーミングなのかしら。まぁ、思い出せなかったとて、ちょっと気持ち悪いだけで、人生にはなんら影響はない。この4人にとっては、社交ダンスもバレエも日常からかけ離れた世界の話で、結局どうだっていいことなんだろう。
そんな黒川氏が、60代以降が自分の脳の仕組みと向き合いながら、最高の人生を送る秘訣をまとめた『「不惑の40代」は「物忘れの40代」
日常とかけ離れたことだから、忘れてしまうだけ
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(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』
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『60歳のトリセツ』 64歳の脳科学者が伝えたい脳の秘密 |
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