炎上を経て「電王戦第2局」開催へ 顛末と見どころをチェック

 2014年3月15日、『第3回 将棋電王戦』第1局、菅井竜也五段と習甦(しゅうそ)の対局が行われ、20時20分、菅井五段の投了により98手で習甦の勝ちとなった。決め手は、前回大会出場時の2倍の規模になった「評価関数」(どちらがどれだけ優勢かを点数化するためのもの)だったという。

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 対局が終わり、第1局の記者会見も終了。第2局のPVが流れはじめ、これで今日の取材は終わりかなと思っていたところ、PVがなかなか終わらない。真っ黒な画面で佐藤六段と磯崎氏が電話で話す声が、交互に聞こえてくる。何かおかしなことが起こっている。記者もにわかには事態が把握できなかったのだが、要するに以下のような内容と経緯である。

・やねうら王に対局に支障をきたすおそれがあるバグがあると磯崎氏が主張
・運営のドワンゴ側は指し手に影響しないという条件付きで特別に修正の許可を出す
・3月1日に磯崎氏が佐藤六段の自宅にやねうら王の新バージョンを持参
・新バージョンはまったく別物のソフトと言えるほど変わっていると佐藤六段が主張
・磯崎氏は自分が施した修正が指し手に大きな影響を与えるとは思っていなかったと主張
・ドワンゴの川上量生会長から最終的に新バージョンで対局を行う判断を下したとの発表

 『第3回 将棋電王戦』に登場するコンピュータ側のプログラムの修正は、昨年11月の『将棋電王トーナメント』終了後の1週間のみ許可というルールだった。このおかげで、プロ棋士は電王戦本番と同じバージョンのプログラムを使って練習対局を行えるということになっていたはずである。あらゆる点で事前のルールから外れており、ツッコミどころが多すぎて理解しがたい内容だ。

佐藤紳哉六段

佐藤紳哉六段

 この経緯のなかで一番の被害者は、ほかでもない佐藤六段だ。新バージョンへの入れ替えは、この会見のわずか2週間前。それまでのやねうら王で研究してきたことはすべてムダになる。また、指し手や強さに影響しないという磯崎氏の主張がまるでウソだった(と少なくとも佐藤六段が感じた)ことによる精神的なショックもある。第2局の対局自体、このままで成立するのか危ぶまれるような流れだ。

 もちろん記者には寝耳に水の発表で、ほかの媒体の記者に尋ねても事前に知っていた様子はない。プロ棋士たちも、一部の関係者以外は知らされていなかったようだ。正直なところ、記者はせっかくの電王戦が台無しになってしまったような気分であった。Twitterを見ると将棋ファンもほかの将棋ソフト開発者もプロ棋士たちも大騒ぎで、まさに炎上状態である。

 Twitterでは「出来の悪いプロレス」だという意見も散見されたが、この会見の際、記者は5メートル程度の至近距離で佐藤六段が怒りをおさえながら努めて冷静に話す様子を見ていたので、これが台本であるとは到底思えなかった。普段はおどけたキャラだが根は真面目すぎるほど真面目といわれる佐藤六段だけに、むしろ台本であったほうがいくらかマシであろうと思われた。

 当日現場に居合わせなかった磯崎氏は、会見直後から自らのブログにQ&A形式で経緯とバージョンアップの際の修正内容について詳細に記述し始めていた。が、記者の見立てでは、磯崎氏がやねうら王を強くする意図はなく、あくまで対局に差し支えるバグを治すだけのつもりだったという主張にはどうも納得がいかなかった。そもそも磯崎氏は「伝説のプログラマー」と呼ばれるほど、その筋では天才的な人物として知られている。ハッカーのイタズラのノリでちょっと仕掛けを入れたらオオゴトになり、火消しに回っているのではないか。

 また、ネット上では「ドワンゴはこの件を炎上マーケティング的に盛り上げに利用しようとしている」という意見も多く見られた。しかし、これについても違和感があった。演出だとしたら脚本が悪すぎる。むしろ逆で、なんとか炎上しないようプロ棋士側に配慮しすぎた結果、将棋ファンや磯崎氏以外の開発者が置き去りになるような形になってしまったのではないか。

 これまで記者は足掛け3年にわたって電王戦を追い続けているが、川上会長以下、ドワンゴのスタッフから将棋界に対して敬意がない対応があったというのをほとんど見たことがない。将棋界という特殊な世界に対する無知からくる失敗はなかったとは言えないが、リカバリーは常にとても早かった。

 新バージョンで対局を行う決定になった理由を想像するのは簡単だ。プロ棋士が弱いバージョンを選んだと心無いファンから言われることを防ぎたかったからだ。元々のルールからは外れてしまうのでアンフェアではあるが、こうなってしまった以上、ドワンゴ側がこの決定を下す理由としては十分なものだ。経緯を公開しないで裏でこっそり変更するというのも、いずれはバレるし、バレたときのダメージが何倍にもなるリスクを抱えるので選択肢にすら入らないだろう。

 これまで将棋を知らない人にも面白く、電王戦を盛り上げてきたPVが残念な内容になってしまったのも、容易に説明がつく。事の経緯をできるだけそのまま(被害者である佐藤六段の視点で)突貫工事でまとめなおすことが要請されていたからだ——と、ここまでが記者が3月18日の火曜日までに想像し、この記事のために記者の見解として準備した内容であった。

 そして3月19日の水曜日、ニコニコ生放送にて新たな説明番組が放送された。ここであらためて、第2局は「元のバージョン」のやねうら王での対局に変更となることが発表された。川上会長からは「そもそもバグの修正を認めたこと自体が誤った判断だった」との謝罪が、磯崎氏からは「結果的に不手際で佐藤六段に迷惑をかけたことをお詫びしたい」と説明があった。

 また日本将棋連盟理事の片上大輔六段からは「当日の午後3時ごろに佐藤六段と確認した」というPVの内容について「事実をオープンにすることに気を取られて、これを見た将棋ファンがどのような気持ちになるかという想像力がまったく欠けていた」という反省の弁があった。なおこのPVは現在ニコニコ動画からは取り下げられている。

会見の模様

会見の模様

 事の次第はざっと以上のような顛末である。一度決まったルールが2回も変わり、結局は元通りに。ちょっとしたボタンの掛け違いから大騒ぎとなったが、もう終わったことである。放送では大筋で記者の想像した通りの顛末だったことが確認できたので、これ以上の細かい部分については、どうしても出歯亀的な興味を持った読者の方だけ、各自ネットで調べてほしい。記者としての責務を放棄する形になってしまうが、一将棋ファンとしてまったく建設的とは思われないので、これについてはお許しをいただきたい。

 では何が建設的か。まずは、もう目前に迫った第2局をどのように楽しむべきか考えることである。もちろん人によって許容できる範囲は異なるので、すでに興ざめしてしまったという将棋ファンの方に無理に楽しめとは言わない。しかし少なくとも記者にとって、それでも電王戦は面白いし楽しみである。人間が全身全霊をかけ、これだけ本気で、キャラを忘れて激怒してしまうほどコンピュータに対して真剣な勝負を挑む姿を見ること。そのことの価値は変わっていないと考える。将棋は常にガチなのだ。

 ちなみに記者は磯崎氏の説明にはいまだに納得できない部分があるが、短期間で大幅にやねうら王の棋力を向上させる技術を持っていることは、ある意味で驚嘆すべきであるし、トラブルメーカー的な規格外のキャラとして受容できないことはない……というのは不真面目にすぎるだろうか?

 記者は、この顛末がある前に、第2局で佐藤六段が持ちネタであるカツラをかぶった姿で対局に望み、どこでそのカツラを外すのか、対局の内容と同じくらいドキドキする展開を期待していた。実は、その期待はいまでも変わらない。いろいろなことがあったが、それらをすべて飲み込み、盤上も、盤外も、完全に支配するサトシンが見たい。そして盛大にスベるサトシンが見たい。会見では竹中直人の「笑いながら怒る人」のようになっていたサトシンだったが、対局後に泣きながら笑うサトシンが見たい。

 そんな私の希望は、明日、叶えられるだろうか。

◆将棋電王戦 HUMAN VS COMPUTER
http://ex.nicovideo.jp/denou/

◆第3回将棋電王戦 第2局の対局方法の説明‐ニコニコインフォ
http://blog.nicovideo.jp/niconews/ni045157.html

<取材・文・撮影/坂本寛>

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