都知事辞任から1年。猪瀬直樹は今、何を思う――「結局、僕は作家だったんだよ」

猪瀬直樹’13年9月、ブエノスアイレスのIOC(国際オリンピック委員会)総会。世界が固唾を呑んで見守るなか、ジャック・ロゲIOC会長が「トーキョー」と東京の勝利を告げたとき、歓喜の輪の中心にいたのは、東京五輪招致委員会“チーム・ニッポン”を率いた猪瀬直樹・東京都知事だった。だが、わずか3か月後、都知事選での5000万円の資金借用問題が火を噴き、猪瀬氏は辞任を余儀なくされた……。 五輪招致レースのさなか、最愛のゆり子夫人を亡くす悲運に見舞われるも、東京への招致に成功。政治家として絶頂に上り詰めながら、一転、奈落の底へ。あれから、早1年。猪瀬氏は今、何を思うのか――。

◆作家の発想を活かした政策プランニング

――見事、五輪招致に成功しましたが、新国立競技場には、景観や膨張する予算から批判が集まるなど、問題が噴出しています。

猪瀬:僕は“素人政治家”だったので、多くの人に迷惑をかけてしまったけど、僕でなくても政治家は時とともに代わっていく。そこに頼るのではなく、ひとりひとりが何をできるのか考えることが大事。五輪にしても、選手として参加する日本人はごく一部。それでも、ひとりひとりが持ち場を守り切る……日本人の特質だし、今の日本に必要なのはこうしたことだと思う。

――皮肉なことに、五輪招致を勝ち取ったわずか3か月後、徳洲会グループからの(※)資金借用問題が発覚し、都知事を辞任することになります。

(※)資金借用問題 
選挙運動資金収支報告書に5000万円が記載されていない、という事実から、’14年3月、公職選挙法違反で罰金50万円の略式命令を受けた

猪瀬:まぁ、実際、借りた5000万円は使わなかったからね。当時は、選挙資金が不足したときに使うかもしれないとか、落選したときの生活資金に充てるかもしれない、って考えていた。徳洲会に便宜を図ったのではとの疑惑もあり、特捜部も僕の行動記録を洗いざらいチェックしたけど、お金を借りた後、僕と徳洲会がまったく連絡を取っていないことはわかっていたはず。“アマチュア政治家”の僕には、そもそもお金を貸してくれた人に便宜を図る、という発想がなかったんだよ(苦笑)。それは、検察が調べた上で、選挙運動資金収支報告書の記載ミスと明確に言っているし、収賄という報道もワッと出たけど、そうではないことは略式命令の処分を見れば明らか。ただ当時は、疑惑を煽る報道で炎上しちゃったから、声を上げることもできない……。収入印紙を貼ってないから、あの借用書は偽物って言われたけど、向こうが貼ってないんだから、しょうがない。借用書の真偽については、徳田さんに取材してくれれば本物だとわかったはずだけど、彼もいろいろ大変でつかまらなかったんでしょう。2月下旬になって、「本物」と言ってくれたけど遅いよ。その頃には都知事を辞めてたからね。

――日本には珍しく、ユーモアを解し、政策立案能力に長けた政治家だったという評価も少なくありません。

猪瀬:やっぱり、僕は作家だったんだよ。作家・猪瀬直樹が都知事をやっていた。振り返れば行政に関わっていても、僕には常に締め切りの感覚があった(笑)。五輪の招致レースは、連載の締め切りのような感覚。道路公団民営化もプロの政治家は誰も手をつけなかったけど、ここまでやれば、こうなる。もう、少し……とやっていたら、5年半も携わることになっちゃった(苦笑)。真面目に取り組んだつもりです。小泉(純一郎)さんには「本当によく投げ出さないでやってくれた。ありがとう」って言われたけど、見透かされてたのかな(笑)。原稿を落としちゃマズいっていう感覚で、結局、道路公団改革も締め切りに間に合わせちゃったんだよね(苦笑)。副知事のときの改革もそうだけど、締め切りを守って、原稿の最後に「了」って書かないと気が済まない。物語が途中で終わっちゃったら、作家としてはイヤじゃない?

――作家の発想を持つ政治家の政界復帰を望む声も少なくありません。

猪瀬:途中で辞めざるを得なかったから残念だし、申し訳なかった。連載を中断したようなものだから、もう少し区切りをつけたかったけど……まぁ、もう政治はいいよ(苦笑)。

※このインタビューは週刊SPA!1月13・20日合併号のインタビュー連載「エッジな人々」から一部抜粋したものです

【猪瀬直樹】
’46年、長野県生まれ。作家。’02年、小泉純一郎首相から道路公団民営化委員に任命される。東京大学客員教授などを経て、’07年、石原慎太郎都知事の要請で、副都知事就任。’12年、東京都知事に就任するも、’13年辞任。『ペルソナ 三島由紀夫伝』ほか著書多数

<取材・文/齊藤武宏 撮影/福本邦洋>

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