50年前の長崎県石木ダム建設計画に税金投入
◆半世紀前の計画が、目的を次々と変えて生きている
計画が持ち上がったのは今から50年近く前の1962年。当初は、長崎県が佐世保市に造成した「針尾工業団地」への送水が目的だった。ところが、「造成地は売れず」(長崎県企業立地課)、「1988年にハウステンボスに売却された」(同土木部)という。
次に繰り出された目的は、「渇水時の危機管理」を盛り込んだ佐世保市の水源確保だった。大村湾に注ぐ川棚川から佐世保市へはすでに導水管が敷かれている。今回はさらに、支流・石木川沿いの家屋や田畑を285億円で水没させ、530億円で新たな導水管を敷くというのが長崎県の計画だ。1997年に治水目的も正式に加わった。約半世紀の間に、建設の目的が次々と変わっていったのだ。
◆工事費捻出による水道料金値上げを隠すため、一般会計から10億円を補填
石木ダムの建設が「佐世保市民の暮らしを歪める」と指摘する山下千秋・佐世保市議は言う。
「工事費捻出のため、佐世保市は昨年4月に水道料金を20%引き上げました。本当は30%上げなければならないのに、『ダムは要らない』との声が上がるのを避けるため、一般会計から水道事業会計に10億円を投じて帳尻を合わせたんです」
これに対し、水道局は「年に2億円ずつ、5年間補填する」とそのカラクリを認め、「経済的な落ち込みで水道使用量が減り、平成19年度から赤字が続いた」(同経営管理課)と説明した。
では、石木ダムができるとどうなるのかと問えば、「現在の水使用量は1日7万トン、石木ダムができたら1日11.7万トンになる」(同課)と水使用量7割増しの未来が描かれている。しかし、予測が外れた場合の料金値上げは「平成26年度に考える」という問題の先送りぶり。そんなずさんな計算のもと、何百億円もの税金が投入されようとしているのだ。
それでもダム推進の声が止まないウラ技を、地権者の炭谷猛さん(60歳)が次のように語る。
「移転済みの住民に、ダム推進の集会だ、視察旅行だと言うて、県が日当ば出す」
◆ダム推進派に県が補助金を出している
長崎県河川課水源地対策班は、これを「生活再建の調査」という名目の補助金だと称し、県と佐世保市とで、「『地域住民の会』12世帯、『対策協議会』50世帯に出している」という。その金額は「開示請求をしてほしい」と言って明かさない。さらに、移転による補償とは別に「ダムができたら払う」と言って数百万円の「協力感謝金」もちらつかせ、住民の心を操っている。
反対派への嫌がらせも行っている。10月23日、佐世保市内で「石木ダムはいらない! 全国集会」を開催した「石木川まもり隊」(松本美智恵代表)らダム建設に反対する県内5団体が市営駐車場にイベント周知のため看板設置の許可申請を出したところ、「石木ダムを推進する佐世保市の施策への妨げになる」との理由で申請が却下された。地方自治法は「住民が公の施設を使用することについて、不当な差別扱いをしてはならない」と規定しているが、市交通局は「法違反の認識はない」と言う。
長崎県や佐世保市による反対派の抑え込みはいま始まったわけではない。1983年に県は強制測量のため機動隊を投入した。以来、集落の入り口には団結小屋が、集落の真ん中には通称「サル塔」が立てられた。団結小屋に詰めてダム反対の意志表示を続けているのは、大正生まれ3人と昭和生まれ3人の、おばあちゃん6人衆。「毎朝8時15分に集合、持参したお弁当をお昼に食べて解散し、畑仕事へと向かうのが日課」だという。
そんなダム闘争の中で生まれ育った若者たちは、「私たちは特別に恵まれたところに住んでいる」とふるさとを誇りに思っている。その1人、石丸穂澄さん(28歳)は難しい石木ダム問題をかみ砕いて伝えるブログ「こうばるを想う1000のメッセージプロジェクト」をマイペースで書いている。
一方、こちらは「ダム建設が絶対に必要」とする長崎県・佐世保市側の意見。どちらに説得力を感じるだろうか。
●長崎県石木ダムホームページ
http://www.doboku.pref.nagasaki.jp/~ishiki/
●長崎県資料 石木ダム建設事業の検証について(案)
http://www.pref.nagasaki.jp/archives/kasenka/5-kensyounituite.pdf
取材・文・撮影/まさのあつこ
「私たちのふるさとには、代替案はないんですよ」
石木ダム建設予定地の長崎県川棚町に暮らす岩下和雄さん(64歳)は、国土交通省に要請された県の「ダム見直し結果」を見てそう語った。
県が独自にコストや実現性について40以上の代替案と比較し、それでも「ダム案が優位」としたことへの反論だ。岩下さんは、ダム予定地である川原(こうばる)地区で建設反対を貫いてきた4世代13世帯のうちの一人。建設となれば、この地区は水没する。
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