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豪雨でダムが放流・決壊したら全国で大被害に。大阪京都で死者数十万人との予想も

全国のダムを一斉点検し、「ルール」を変える必要がある

天ヶ瀬ダム

構造が脆弱なうえ、下流に大人口を抱える天ヶ瀬ダム。今本氏は「早急に点検を」と主張する

 西日本豪雨災害で、“想定外”の豪雨があったとして上流のダムが大量放流、下流域に大きな被害を出した。再び“想定外”の豪雨があった場合、大量放流や決壊の可能性のあるダムは全国に数多く存在するという。 「今回の西日本豪雨で、ダムが緊急放流をしたことで下流域が浸水、多数の死者を出しました。国交省は『ルール通りに操作をした』と説明していますが、早急に全国各地のダムを一斉点検し、ルールを変える必要があります」  こう話すのは、河川工学者の今本博健・京都大学名誉教授(淀川水系流域委員会元委員長)。 「多くのダムは200年に1回の洪水を想定して設計されていますが、それ以下の“想定内”の雨量でも、満杯になりそうな場合、緊急放流をするルールになっています。しかし、越水(ダム湖の水を溢れさせる)で対応をすれば、緊急放流をするとしても、放流量は現在の緊急放流よりゆるやかになります」  しかし今回、国交省は「越水でダム決壊の恐れがあったため緊急放流した」と説明している。 「そんな危険なダムは現時点で撤去すべきです。想定外の豪雨では、緊急放流しても越水に至る場合はありますから。その一方、越水に耐えうるダムは緊急放流しないというルールに変えることで、今回のような被害を避けられます」

天ヶ瀬ダムが決壊すれば、京都や大阪で数十万人単位の死者!?

 今本氏が「決壊するかどうか、真っ先に点検すべき」と指摘するのはアーチ式の「天ヶ瀬ダム」(京都府宇治市)で、重力式ダムに比べて構造的に脆弱だという。 「このダムが壊れたら、下流の京都府や大阪府で、恐らく数十万人単位の死者が出るでしょう」(今本氏)
民主党

2008年、八ッ場ダムの工事現場を視察する鳩山由紀夫元首相(左)ら。民主党政権宣言が掲げた「脱ダム」は途中で頓挫した

 首都圏に流れ込む利根川上流にも、決壊で大被害が出る可能性のあるダムが存在する。 「下久保ダムと八ッ場ダムは同じ規模で、地滑り頻発地域に建設され、下流域が首都圏という共通点があります。八ッ場ダムは浅間山噴火で土石流の恐れも。豪雨だけでなく、地滑りや噴火で土砂も大量流入、ダム決壊や急激な放水が起き、首都圏で大きな被害が出る恐れがあるのです」(「水源開発問題全国連絡会」嶋津暉之共同代表)

ダム建設が優先され、ほかの治水対策が後回しに

 電力会社が管理する発電用ダムも危ないという。「発電用ダムは利水専用なので洪水調整容量をほとんど持たず、すぐ満杯になって緊急放流するので危険なのです」(嶋津氏)。  今本氏と嶋津氏がともに強調するのは、「ダム建設よりも河道整備(堤防強化や浚渫など)を優先すべき」という、河川政策の転換だ。 「旧建設省も堤防強化の重要性に気づき、堤防の住宅側に遮水シートを入れる『被覆型耐水堤防』を1996年から提唱、工事を始めましたが、2001年12月の川辺川ダム住民投票を機に『ダム建設に支障が出る恐れがある』ということで2002年にこの方法を撤回してしまった。安価で即効性のある堤防補強が後回しにされ、効果が限定的なダム建設が優先されてきた結果、西日本豪雨災害を招いたといえるでしょう」(嶋津氏) ※『週刊SPA!』8月21日発売号「『危険なダム』ワースト10」より 取材・文・撮影/横田一
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

週刊SPA!8/28号(8/21発売)

表紙の人/ 浅川梨奈

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