【荻上チキの短期集中連載】ルポ・遺体安置所が語りかけるもの vol.1 「約束」

◆「震災以降は、ご遺体安置所の受付をしています」

2011年、夏。東京の代官山では、被災地である岩手三陸を支援するためのイベント「復興食堂」が開催されていた。

「復興食堂」は、被災者同士の交流の場を作るために活動している炊き出しキャラバンである。普段は被災地を駆け巡り、食事と宴(うたげ)の場を提供しているが、ときどきこうして、支援者との集いの場を作るため、京都や北海道など、被災地以外の場所でも開かれている。

代官山での開催にあたっては、『週刊SPA!』内の連載「週刊チキーーダ!」を共同連載している相方、経済学者の飯田泰之もボランティアとして奔走していた。そうした縁もあって、その日は僕もほんの少しだけ、このイベントのお手伝いをさせていただいた。

石巻スコッパーズ

7月末に代官山で行われた「復興食堂」でパフォーマンスをする石巻スコッパーズ。手前が瀬戸公美子さん。奥がメンバーの鈴木紫鷹君

イベントでの司会や、ネット番組を通じた宣伝など、本当にわずかなお手伝いではあったものの、それが誰かの助けになるのであればと、懸命にこなしたことを覚えている。

イベントでは、自らも被災者でありながら、避難所などで「スコップ三味線」を披露して周り、笑顔を作り歩いている「石巻スコッパーズ」の演奏があった。メンバーの方々には、ネット動画を通じたゲリラ的宣伝番組にも出演していただき、復興への思いを語ってもらった。

生放送終了後、石巻スコッパーズ代表の瀬戸公美子さん(58歳)と雑談していた時、ふと「スコッパーズとして活動していない時は何をしているのか」という話題になった。すると瀬戸さんは、談笑ムードから一転、真剣な表情を浮かべながら、次のように答えた。

「普段は、呑み屋さん。震災以降は、ご遺体安置所の受付をしています」

その言葉につられて、僕も眉間に力を込める。それは大変な仕事でしょうね、そうした月並みな言葉を返したような気がする。すると瀬戸さんは、さらにこう続ける。

「一度、石巻に来てください。そして、安置所を、その目で見に来てください」

こうして僕らは、石巻の遺体安置所をたずねるという「約束」をした。

◆安置所の仕事に志願した理由は「後ろめたさ」

瀬戸さんとの「約束」が果たせたのは、11月頭。「時間が少し空いてしまったが、お言葉に甘えて取材したい」という旨を伝え、いつもの顔ぶれで宮城県へと向かった。

待ち合わせ場所である石巻漁港では、瀬戸さん、そしてスコッパーズのメンバーである鈴木紫鷹君(22歳)が、僕らを迎えてくれた。バイタリティ溢れる、温和な笑顔との再会を喜んだのもつかの間。すぐさま瀬戸さんが車に乗り込むように急かす。

「遠いところからわざわざ来ていただき、ありがとうございます。それでは早速、ご案内します」

震災当日は、瀬戸さんの店にも2mの津波が襲った。すぐに別の店舗を確保したものの、当時の石巻は、とても呑みの場を提供できるような雰囲気ではなかった。他に何か、この震災を我がことのように受け止められる場所はどこだろう? 仕事は何だろう? そう考えていた時に見つけたのが、遺体安置所の仕事だったという。

「安置所の仕事は緊急雇用で6か月間、11月末までです。震災後、私はずっと後ろめたい気持ちでいたんです。自分はたいした被害を受けてない。だからどこか他人ごとのような気がしてしまっていて。

店もすぐ別の所を借り、車だってすぐに買った。大変な打撃を受けた石巻にいながら、自分はこうして、生き残った。どうやったら、亡くなった人、大事な人を失った人の気持ちがわかるのかなって、ずっと考えていた。だから自然と、安置所を選んだんです」

「やってよかった」と瀬戸さんは言う。

最初の2日間は「さすがに気持ち悪い」という感情もどこかにあったが、3日目からは、「これがもし、我が子だったら」と、まるで自分のことのようにおきかえることができた。その感情を大事にしながら、数多くの遺族の方と丁寧に接していった。

津波被害にあった街並みの様子を撮影した写真や動画は数多く見られる。だが、安置所を取り上げた記事は少ない。事前情報があまりないことを不安に思った僕たちは、安置所に向かう途中、それとなく安置所の様子をたずねた。

「5月までの段階でお亡くなりになった方のお顔、検死のお顔は、受付のところに写真で貼ってあります。その受付では、誰でもご焼香もできます。でも、一般の方はそこまで。今日は市の方にお願いして、ご遺体のあるところまで入っていただきたいと思います。

今も遺体はあがってきます。ドライアイスや防臭剤では、まったく及びません。チャックがついている納体袋を、五重、六重にしても、匂いは残ります。その光景をぜひ目に焼き付けて帰ってください」

⇒vol.2 「見せられない写真」へ続く

※11月15日発売 週刊SPA!本誌『週刊チキーーダ!」では今回の取材後の荻上と飯田の対談も掲載

【荻上チキ】
1981年生まれ。評論家。
メールマガジン『αシノドス』 編集長(http://synodos.jp/)。ニュース探求ラジオ『Dig』 にて水曜パーソナリティを務める(http://www.tbsradio.jp/dig/)。著書に『ウェブ炎上』『社会的な身体』『セックスメディア30年史』『検証 東日本大震災の流言・デマ』など、共著に『ダメ情報の見分けかた―メディアと幸福につきあうために』など、編著に『もうダマされないための「科学」講義』など。BLOG:http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/

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