埼玉県久喜市の液状化 行政は補償せず
◆ポスト震災[首都圏不動産選び]の新常識(2)
深刻な液状化が発生したのは浦安のような湾岸地域だけではない。長閑な田園風景に瀟洒な新興住宅が立ち並ぶ、埼玉県久喜市の南栗橋地区も被災地である。被害に遭ったのは、駅周辺の住宅地のほんの数区画。規則正しく軒を連ねていた家々は地に沈み、歪に傾いている。周辺の電柱は曲がり、地面は隆起。水道はいまだ仮復旧の状態だ。
この地が旧栗橋町により宅地造成されたのは今から30年ほど前。水田だった一帯に川砂を堆積して埋め立て、土地を分譲した。15年住み続けている吉村貢さん(仮名・75歳)は、崩れかけたブロック塀を見つめて肩を落とす。
「ウチは家自体の傾きはなかった。だから市の調査では、被害がゼロだって。補償はしてくれないだろうね。液状化の危険がある場所に家を建てた私らの自己責任だって言われちゃぁそれまでだけど、ここに家を建てていいよって推進したのは行政だよ。大地震だから、文句言っても仕方ないけどね……」
吉村さん宅と同区画に住む稲川陽介さん(仮名・32歳)は、9年前にマイホームを購入。震災後のボーリング検査で、家屋が2度傾いていることが判明したという。
「この地に愛着があるし、これからも住み続けたい。修復にはもう一軒家が買えるくらいの費用がかかるけど、現在自費で工事をしています。実は建築前も、心配だったのでボーリング検査をしてもらったんです。そのときは地盤の支持層まで杭を打たなくて大丈夫、という検査結果が出たんです。マンションを買っていればこんな苦労をせずに済んだかも。またこの地の液状化被害のエリアは狭小ですが、市はちゃんと造成手順や技術の非を認めてほしい。同様の被害が出た我孫子なんて市が落ち度を認めてますからね」
震災以前は都心で働く新中間層に人気だったベッドタウン。相場は建て売りで4000万~5000万円だったという。この地で30年不動産業を営む篠田秀樹さん(仮名・57歳)はこう嘆く。
「液状化の被害がない地区まで風評被害を受けているのは確かです。震災後は契約が1件もない。だから具体的な数字が打ち出せないのが現状です。ここは両隣の栗橋・幸手より人気で地価が高かったのに、しばらくダメでしょうね」
取材・文・撮影/野中ツトム(清談社) 高木瑞穂 遠藤るりこ(ビッグアップルインターナショナル) 遠藤修哉・八木康晴(本誌)
【CASE2】埼玉県久喜市南栗橋
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