なぜ独裁型の政治家が増えるのか? その鍵は「反の経済法則」にあった
――デフレギャップが存在している「反の経済」下ではなぜ政治が独裁的になるのでしょうか?
木下:85年前の帝国主義の時代、すなわち第2次世界大戦の時代を考えてみてください。なぜ世界の人々はファシズムと共産主義を迎え入れたのか。その答えこそ、当時の世界が「反の経済法則」に支配されていたからです。「反の経済」では、自国の利益が最優先される「内向き」の経済法則が優位になります。ヒトラーとスターリン、日本では大政翼賛会と治安維持法の制定によって軍事独裁の体制が生まれ、アメリカではルーズベルトがまるで、社会主義国のような「ニューディール政策」を掲げ、12年間、アメリカ大統領として君臨しました。イタリアでは、ファシズムが起こりムッソリーニという独裁者が生まれ、スペインでも親ナチ政権であるフランコが君臨しました。現在、日本や欧州ではマイナス金利という金融政策が行われています。金利がゼロ以下という世界は利潤率がゼロ以下になるという資本主義の危機的状況です。その結果、英国はEU離脱を決定しました。イギリスで多数を占めた国民意識はほかのヨーロッパ諸国にも影響しています。フランスではマリーヌ・ル・ペン氏率いるフランスの極右政党「国民戦線」、フラウケペトリ―氏の「ドイツのための選択肢」、支持率を上げているハンガリーのオルバーンビクトル首相、ローマ初の女性市長のビルジニアラッジ氏らはいずれも、統合化の目標から正反対に、「統合からから分散」へ、全体の利益から自国利益第一へと、遠心力が強まっています。
――その象徴的な最後の現象が「トランプ大統領の誕生」であると。
木下:結果は今年の11月8日にわかりますが、トランプ氏の種々の政策を一つの、スローガンにまとめると「アメリカ第一主義」、これは形を変えたモンロー主義です。もし、「反の経済法則」どおりに、アメリカ大統領選挙が進めば、トランプ大統領が誕生するでしょう。
――では具体的になぜ、「反の経済」下では独裁型の政治が生まれやすいのでしょうか?
木下:その答えは、「反の経済法則」が支配する経済では、お金が回っていないからです。したがって、経済成長がゼロあるいはマイナス、利子率がゼロあるいはマイナス金利、利潤がゼロあるいはマイナスになります。すなわち、積極的な経済活動を行っても平均して「ゼロかマイナスの利潤」しか得られません。「自由貿易」は否定され、「外向きの経済政策」は否定されます。そこで、「内向きの経済政策」で「利潤ゼロ」を維持することを目指します。これは、従来からの資本主義の目指すベクトルとは真逆になります。このとき、本来の「資本主義」は失われるので、「市場」は否定され、「統制経済化」されます。各国の中央銀行や中央政府の「政策」に注目が集まります。本来の資本主義では、「夜警国家」が理想的な国家像です。また、経済は「市場」がすべてです。国家政策は、政策決定の「市場」である「民主主義的」になります。「民主主義」とは、政策決定の「市場」であるからです。今の「反の経済」下ではこれらの「資本主義」の本来の姿である、経済は「市場に聞く」、また政治は「民主主義という市場に聞く」ということが困難になります。「反の経済」下では、経済が「国家主導」になり、その結果、政治は「独裁的」になるのです。
世界は「反の経済法則」に支配されている。木下氏の著書『資本主義の限界』では、「反の経済」を脱する方法を論じている。気になった方はぜひご一読いただきたい。〈取材・文/日刊SPA!取材班〉
【木下栄蔵(きのした えいぞう)】
1949年、京都府生まれ。1975年、京都大学大学院工学研究科修了、現在、名城大学都市情報学部教授、工学博士。この間、交通計画、都市計画、意思決定論、サービスサイエンス、マクロ経済学などに関する研究に従事。特に意思決定論において、支配型AHP(Dominant AHP)、一斉法(CCM)を提唱、さらにマクロ経済学における新しい理論(Paradigm)を提唱している。1996年日本オペレーションズリサーチ学会事例研究奨励賞受賞、2001年第6回AHP国際シンポジウムでBest Paper Award受賞、2005年第8 回AHP国際シンポジウムにおいてKeynote SpeechAward受賞、2008年日本オペレーションズリサーチ学会第33回普及賞受賞。2004年4月より2007年3月まで文部科学省科学技術政策研究所客員研究官を兼任。2005年4月より2009年3月まで、および2013年4月より名城大学大学院都市情報学研究科研究科長並びに名城大学都市情報学部学部長を兼任。8月12日に新刊『資本主義の限界』(扶桑社)を発売
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