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一人の女のために「人狼オフ会」が崩壊…なぜクラッシュを防げなかったのか【サークルクラッシュ事件ファイル②】

【男同士の絆】  やや込み入った話になったが、集団の分析に戻ろう。次に、前回の事例では「男同士の絆」があった。男女比の偏りがあった(男が多く、女が少なかった)という点では前回も今回も同じなのだが、前回は男同士の絆が佐竹を守ったのだった。恋愛の情報を共有し、仮に失恋したとしても慰めてくれるというような絆は、クラッシュを防ぐ上では重要だ。  しかし、これが行き過ぎると「ホモソーシャル」などと呼ばれるネガティブな事態も生じうる。これもまた暴力的な事態なのだが、女性嫌悪(と同性愛嫌悪)によって男同士の絆が成り立っているような、そんな集団だ。女性をモノ扱いするような下ネタが行き交う男子校をイメージしてもらえば分かりやすいかもしれない。世間では東大生や慶應生の集団レイプ事件が記憶に新しいが、男同士の絆が暴走し、「女性の排除」にまで向かうと危険性を帯びるということだ。  敢えて単純な図式で言えば、男同士の絆は「ホモソーシャルかサークルクラッシュか」の二択を迫られている。男性の多い集団における男と女の関係は、パワーバランスが男の側に傾けばそれはホモソーシャルに、女の側に傾けばサークルクラッシュに繋がる。ということは、そのどちらでもない「適度な男同士の絆」こそが男性の多い集団においては重要なのだ。  前回の事例では加奈子が追い出されることで決着がついたが、加奈子は男性だけでなく女性からも疎まれていた。これは相当込み入ったジェンダー論の問題であり、詳細に論じるためには稿を改めることになる。例えば「なぜ男のクラッシャーは少ないのか(なぜ「クラッシャー」は女なのか)」といった疑問にも今後答えていこう。  以上をまとめると、 ①(恋愛)情報の透明性 ②適度な離脱の難しさ(居場所性) ③適度な男同士の絆  において、今回よりも前回の方が優れていたため、クラッシュを防げていたと言える。ここまで詳細に分析すると、クラッシュが単なる個人の問題ではなく、現代社会に根ざした問題であるということにも頷いていただけるのではないだろうか。  ただしもちろん、「どんな人がクラッシャー・クラッシャられになるのか」「彼らはどのように行動すべきだったのか」といった個人の問題もまた重要なのは間違いない。次回以降もまた違ったテイストのサークルクラッシュ事例を紹介しつつ、その背景には何があるのかを掘り下げていこう。 【ホリィ・セン】 1991年生まれ。京都大学大学院生。社会学専攻。研究テーマは恋愛。「サークルクラッシュ同好会」代表。オープンシェアハウス「サクラ荘」代表。2012年から発行している同好会の会誌はコミックマーケットや文学フリマ等で頒布され、通算1000部以上の販売実績がある。2015年より「サクラ荘」を立ち上げ、生きづらい人々の居場所の問題について考えている(@holysen
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