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運命の“サバイバー・シリーズ”――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第273回(1997年編)

 ――試合開始から12分19秒、ショーンがブレットをシャープシューターの体勢にとらえた瞬間、いきなり試合終了のゴングが鳴った。ゴングを要請したのはレフェリーのアール・ヘブナーで、それを命令したのはリングサイドに現れたビンスだった。  ギブアップの意思表示をしていないブレットは、なにが起こったかわからないという表情で一瞬だけキャンバスを見つめ、それからビンスの顔をみてすべてを理解した。「やられた……」という表情で立ち上がったブレットは、リング下にいたビンスに向かってツバを吐きかけた。  そのときすでにショーンはリングから逃走していた。ショーンをバックステージに誘導したのはビンスの側近のジェリー・ブリスコで、私服姿のトリプルHもショーンのあとを追った。“実行犯”ヘブナーもバックステージまで走り、アリーナ裏口に待たせてあったタクシーに飛び乗った。  異様な空気を察知して、ブレットの弟オーエン、デイビーボーイ、ジム・ナイドハートがリングにかけ上がってきた。  このあと、ブレットはバックステージのビンスのプライベート・ドレッシングルームに乗り込んでいった。そこでふたりのあいだでどんなやりとりがあったのか――ブレットがビンスの顔にストレート・パンチをお見舞いしたとする説がある――はだれも知らない。  ドキュメンタリー映画『レスリング・ウィズ・シャドウズ』には、それから数分後、ビンスがふらふらとドレッシングルームから出てくるシーンがおさめられている。  その後、ビンスは「わたしは正しいことをした」と主張したが、事件に関する“公式コメント”を何度も修正した。ショーンはあるときは「オレはなにも知らなかった」と発言し、またあるときは「はじめからすべてを知っていた」とそれをひるがえした。  あの日、ビンスはついに“悪のオーナー”ミスター・マクマホンとしての自我を選択したのだった。(つづく)
斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ ※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。
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