「ふたりとも地元が好きじゃないから東京に出てきてる。だからウザい“絆”がないんですよ」
3・11以降、もっとも面倒だと感じていることを彼女に聞くと、
「出身地を聞かれるのが1番ダルいですね」と答えてくれた。
いまの彼氏は千葉県浦安市出身のバーテンダー。震災後は液状化現象で被害を受けた埋立地の街として話題となったが、今でも彼に「液状化現象大丈夫だった?」と聞く者はいない。当然、沙也加さんも彼氏にそんなことは聞いたことがないという。
彼とは付き合って2年ほど経つが、現在セフレが1人いる。新宿区に住むいわき市出身の経営者(磐城高校卒・31歳)だ。セフレが福島出身だったのは「たまたま」だったという。
「セフレのいいところは、逆に互いの出身地(福島)の話をしないこと。別にふたりとも地元が好きじゃないから東京に出てきてるから、ウザい“絆”がないんですよ」
上遠野由加里さん(仮名・27歳・安積高校卒)
いま、全国各地の避難者が通う小学校でのいじめと差別が話題になっているが、実は上遠野さんの日常生活でも、ゆるやかな偏見が起きている。
「合コンで出身地を言うだけで変な雰囲気になるんですよね。私が住んでたのは福島県の真ん中にある郡山市。比較的被害は少なかったし、そもそも震災当時、私はすでに上京して大学に通ってたので、辛い思いは一瞬だけ。親戚もみんな中通り(郡山市や福島市のエリア)なので、津波も原発事故もあんまり“当事者”じゃないんですよ」
上遠野さんが1番困るのは、初対面の男性と会った時だ。
「このあいだ、渋谷の宮益坂のほうにあるトラットリアで広告業界の人と合コンしたときに、飲み会の中盤で、出身地の話になったんですよ。みんな群馬とか、東京とか話して、そのあとに私が福島って言ったら一瞬空気がかたまった。すぐわかるんですよ。
『え、じゃあ大変だったね』と言われて。うわ、またこれかよ…って。友達も私の出身地なんて知らなかったので『え!ゆかりって福島だったのー!』ってちょっと特殊な目で見られて」
その後、テーブルではまるで、不幸であったことを期待しているかのように震災当時の話をさせられたという。
「そんとき何してたの?」
「いや、すでにこっち(東京)にいたんだよね」
「じゃあ家族とかは?」
「実家は停電したみたいだけど」
「やっぱ被害あったんだね…」
(いや、首都圏も軽く停電してたじゃん…)
しかし、震災から6年が経ったいま、彼女は会話に“サービストーク”を挟むまでになってしまったという。周囲からの「福島出身者はこうであってほしい」という被災者に相応しい語りを彼女自らが能動的に行うようになったのだ。
「期待に応えてるってわけじゃないんですけど、あんまり近くない人の不幸なエピソードを話すことはあります。中学1年生のときの同級生のおじいちゃんとおばあちゃんが久之浜(いわき市)で、津波で流されたらしいのでその話をすると、なんていうか、みんな納得した表情になる。『やっぱり大変だったんだね』って」
このような「そうであってほしい」「こんな話を聞きたい」という合コンでのやりとりは、メディアが不幸な人や貧困層をこぞって取り上げてわかりやすい不幸を語らせる現象とどこか重なる。
地方出身者の“帰省あるある”とは
上遠野さん曰く、東京に住む地方出身者が地元へ帰省したときの“あるある”があるという。
数時間の移動を終え、実家に到着し玄関のドアを開ける。荷物を置いて親戚や家族に挨拶すると、異口同音に皆から
「道路混んでた?」「新幹線どうだった?」と道の混み具合を聞かれるというのだ。
「それ、聞く意味ありますかね?」
由加里さんは、その“帰省あるある”と同じ感情を「地震大丈夫だった?」という質問にもまた感じるという。
「それ知ってどうすんの?っていうシンプルなツッコミをしたくなりますよね。本当に心配してるから聞いてる人もいるんだろうけど、それ以上にずーっと震災のことを聞かれ続けるのがイヤ。私たちはいつまで『地震、大丈夫だった?』って聞かれ続けるんだろう」