ホークとノートンはやっぱり親友――フミ斎藤のプロレス読本#014【Midnight Soul編9】
ノートンがプロレスラーになってからは不思議なくらいふたりのあいだには接点ができなかった。ホークがWWEと契約して世界じゅうをツアーしていたころ、ノートンはまだオレゴンのローカル団体で1試合50ドルの日銭を稼いでいた。同級生なのにいろいろな意味で別べつの人生を歩んでいた。
でも、ノートンはホークのことを羨んだり妬んだりはしなかった。ホークのような華やかなスターになりたくてプロレスラーになったわけではない。マネーも大切といえば大切だけれど、それだけが目的ではない。
これが自分にいちばん合った仕事だとわかったから、ずいぶんまわり道をしたけれど、最終的にプロレスを選んだのだった。
プロレスのリングでは接点はなくても、ふたりはおたがいがいまどこでなにをしているかをちゃんと知っていた。ベンチプレスだったらホークはせいぜい400ポンドくらいしか挙げられないけれど、ノートンは660ポンドを軽くクリアできる。こういうことは恨みっこなしだ。
どちらかひとりが酒場で喧嘩に巻き込まれたら、必ずもうひとりが応援にかけつける約束になっていた。
ホークはホークのやり方でサーキットをまわりつづけ、ノートンはノートンのやり方でプロレスを模索していたら、ぐるっと一周してふたりとも同じ場所にたどり着いた。
高校時代とひとつだけちがっているところは、ふたりともプロレスラーとしての自我を身につけたことだった。
反対側の花道から入場してきて、リング上の対角線を結んでおたがいの顔を見たとき、いつかはこうして再会できる日がやって来ることは初めからわかっていたことをふたりは思い出した。
プロレスは長い時間をかけてゆっくりと完成させていくスポーツ・アートである。だから、きのうきょうの勝った負けたで大騒ぎなんかしない。ホークにはホークが思い描くプロレスの様式があって、ノートンにはノートンが考えるプロレスのスタイルがある。ふたりは、きょう初めてそれを確かめ合った。
ノートンはバスのなかでかなりビールを飲んだのだろう。それともただ単に体が大きいからだろうか。ずいぶん長いあいだ便器の前に立っていた。やっぱり、本人がそういうように完ぺきにリラックスしちゃってるんだろう。
プロレスラーはボディー・ランゲージの達人だ。ホークとマイクは子どもが取っ組み合いのケンカをするときみたいに、何度も何度もクォーターネルソンで首をつかみ合い、頭がもげそうになるほどの勢いでクローズラインを打ち合って、おたがいの気持ちを確認した。
ふたりはやっぱり親友だった。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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