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文科省は靖国神社を差別していた。行政のチェックは政治家の役割【評論家・江崎道朗】

官僚の間違いをチェックするのも政治家の仕事

 この政府答弁書では、修学旅行や野外研修として靖国神社など訪問してよいとして次のように認めた。 「文部科学省としては、学校における授業の一環として、歴史や文化を学ぶことを目的として、児童生徒が神社、教会等の宗教的施設を訪問してもよいものと考えている。そのような趣旨で、例えば、御指摘の靖国神社等についても、同様の目的で訪問してよいものと考える」  靖国神社などを訪問した際、宮司やその関係者から、児童・生徒が、靖国神社などの由来や参拝の仕方について説明を聞くことついても構わないとされた。 「文部科学省としては、学校における授業の一環として、歴史や文化を学ぶことを目的として、神社、教会等の宗教的施設の関係者から当該施設の歴史、由来等について知識として説明を聴取することは、特段の支障がない限り、行ってよいものと考えている。そのような趣旨で、例えば、御指摘の靖国神社等についても、その関係者から同様の目的で聴取してよいものと考える」  文科省も、靖国神社訪問禁止条項を半世紀以上も放置してきたことに責任を感じたのか。平成20年7月に全国の都道府県教育委員会を対象とした「新学習指導要領」講習会で、平沼衆院議員の質問主意書と政府答弁書を配布し、「これからは靖国神社や護国神社にも訪問してよい」と説明した。  今回の獣医学部の新設問題でもそうだが、官僚たちは前例踏襲を優先し、獣医不足で困っていることなど、忖度しようとはしない。しかも官僚たちは、前例が間違っているかどうか、よほどのことがない限り検証しようとはしない。だから占領下で定められた「靖国神社、護国神社差別」の通達が半世紀以上も放置されるという、ふざけたことがまかり通るのだ。  こうした「前例踏襲」の行政をチェックするために存在するのが、選挙で選ばれた政治家なのだ。民意を代表する政治家が憲法や法律に基づいて行政をチェックし、国民の利益を守る、それが議会制民主主義というものだ。  金銭のやり取りが伴う汚職は許されないが、官僚に対する政治家のチェック機能そのものを疑問視するかのような一部マスコミの議論は、議会制民主主義を否定するものだ。現行憲法と民主主義を一から勉強し直してもらいたい。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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