家族や恋人など、身近な人が「女装の趣味」を持っていたら…どうする?<女装小説家・仙田学の疑問>
女装未遂の男の子の話を、最後にご紹介しよう。今回のアンケートとは別に、「まわりに女装したことのある男の子はいない?」とある女性に訊いたところ、こんな答えが返ってきた。
「女装はいないが、自分で着る用のゴスロリ服を探して、結局、買わなかった奴はいた。童貞こじらせくん。ゴスロリ服を買うか、ドールをお迎えするかで迷って、どっちにも振り切れなかったらしい」(20代・会社員)
――ちょっと待って。なんで童貞こじらせてゴスロリ服買うの? しかもなんでやめたの……?
「女の子より俺のほうがかわいい! みたいな結論だった気がします」
――「女の子より俺のほうがかわいい!」
ビビッくるものがあった。そう。この連載のタイトル「女装小説家・仙田学の『女の子より僕のほうが可愛いもんっ!!」は、彼のこの言葉からいただいたのだ。
「『女の子より僕のほうが可愛い!』は、彼の内面の方に適用される。女の子より、いわゆる女の子らしさがある。見た目は……(笑)。恋愛対象は女性。人としては男女ともに美男、美女が好き。美しいもの、可愛いものが好きで、本当、女の子らしいなぁ、という感じ。食べ物や持ち物も女子受けしそうなものが好きで、女の子特有の面倒臭さみたいなものも持ち合わせている。あんまり友達が多くはないオタクで、趣味で小説を書いている」
――彼女にとって彼は女友達のような存在で、取り繕う必要もなく、何でも話せた。一緒に旅行に行き、ツインの部屋に泊まったこともある。一方で、彼のほうは彼女に好意があったが、彼氏もいるので無理だとあきらめて、女友達ポジションに甘んじた。
あるときふたりは大喧嘩をする。その後、彼は謝罪文を送ってきた。そのなかでふんわり告白してきたのだとか。
「付き合って欲しいくらい好き、みたいな言い方だったので特に返事をすることなく流した。『付き合ってください!』とまで言われてたら、真摯に受け止めてお断りしていた」
――男の子と泊りがけの旅行に行くことを許すなんて、ずいぶん寛大な彼氏では?
「その旅行は彼氏と付き合う前から決まっていたので、特に怒られたりはしなかった。内心どう思っていたかはわからない」
――サイテーですね。
「あれ? あれ? もしかして私が悪い? 私は面倒臭いタイプだと思いますよ。少なくとも私が男だったら付き合いたくありません」
――童貞をこじらせて女装にも振りきれなかった男の子。男の子が好意を寄せる、めんどくさい女の子。さらにその彼氏。僕にはこの3人の関係がとても魅力的に見えてしかたがない。3人はそれぞれお互いを、ありのまま、まるごと受け容れようとしている。喧嘩したり、葛藤があったりするかもしれないけれど。
女装そのものだけでなく、女装を通して見えてくる、そんな人の在り方に僕は興味がある。
連載のタイトルを、結局女装をあきらめた男の子の言葉から採ったのはそのためだ。
<文/仙田学>
【仙田学】
京都府生まれ。都内在住。2002年、「早稲田文学新人賞」を受賞して作家デビュー。著書に『盗まれた遺書』(河出書房新社)、『ツルツルちゃん』(NMG文庫、オークラ出版)、出演映画に『鬼畜大宴会』(1997年)がある
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