路上に落ちていたタイヤが原因の「岡山母娘事故死」はどうすれば悲劇を防げたのか?
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
このところ、DQNドライバーによるいやがらせ行為に世間の興味が集中しているが、そんな折、恐ろしい事故が起きた。
岡山県の中国自動車道上りで、落ちていたタイヤに軽乗用車で乗り上げ、路肩に出ていた母娘が、同じくタイヤに乗り上げて横転した後続の大型トレーラーにはねられ亡くなったのだ。タイヤは道路の真ん中に落ちており、大型車用だったという。
こういった高速道路上の落下物は、実にやっかいだ。これらをどうやって避けるべきか、明確な答えはないからだ。
かつて私も、高速道路上に落ちていた大きめのベニヤ板を踏んでしまったことがある。平らなものはどうしても発見が遅れるし、それを避けるために急ブレーキや急ハンドルはかえって危険と判断、そのまま踏み越えたのだが、私のクルマが起こした後方乱流でそのベニヤ板が舞い上がり、それが後続の友人のクルマにモロに衝突してしまったのである。ベニヤ板はクルマに当たって木っ端微塵になった(ように見えた)。
幸いクルマが多少凹んだくらいで、大きな事故にはならなかったが、あの時いったいどうすべきだったのか、いまだに自分の中で答えは出ていない。
大型車のタイヤのような大きな落下物の場合、それなりの距離から「何かある」と確認できるはずなのだが、今回のように雨の夜間で視界が悪かったり、あるいは交通量の少ない路線でヘッドライトが下向きのままだったりすると、直前まで発見できない場合もある。そうなるともう、急ブレーキか急ハンドル以外できることはない。どちらも後続車との事故につながる可能性があり、特に高速道路上では、ドライバーは本能的に急ブレーキや急ハンドルをためらう習性があるから、結局何もできずにそのまま衝突してしまうリスクはかなり高い。
あえて言えば、現在の乗用車は高速道路で急ハンドルや急ブレーキを行っても、それだけでスピンしたりすることはまずない。アンチロックブレーキシステム(ABS)は、21世紀以降に生産されたほぼすべての乗用車に装着されているし、横滑り(スピン)防止装置も、2012~2014年に順次義務化された(軽自動車は2014~2018年)。
一般ドライバーが高速道路上でタイヤなどの大きな落下物を発見した場合、自分及び周囲への被害を減らすためには、いきなりハンドルで避けるよりは、まず少しでも速度を落とす方を選択すべきとは言える。つまり、「避けられない」と思った瞬間、蹴とばすくらいの勢いでブレーキを踏み込むのだ。なぜ蹴とばすかというと、踏み込み速度が速ければ速いほど、ブレーキが効くまでのタイムラグを縮められるからだ。
一般ドライバーの場合、ブレーキを踏もうと思ってから実際に減速が始まるまで、1秒ほどもかかる(ペダル踏み替え時間を含む)。時速100kmで1秒間走ると28mも進んでしまうから、少しでもその時間を短くすべきなのだ。繰り返すが、乗用車ならブレーキペダルを蹴とばしても、まずスピンはしません。
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1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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