亀井静香氏を忘れない…怒鳴り声一発で日本の高速道路に偉大な2つの足跡を残した
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
前衆議院議員・亀井静香氏(80歳、無所属)は10月4日、次回の衆院選に出馬せず、政界を引退することを決めたという。私は亀井氏とお会いしたこともないが、引退のニュースを聞き、道路交通ジャーナリストとして胸に迫るものがあった。なぜなら亀井氏は、日本の高速道路に、確実な足跡を残したお方だからだ。
それは亀井氏が、第2次橋本内閣で第64代建設大臣を務めていた時のこと。在任期間は1996年11月7日から1997年9月11日までと1年足らずではあったが、その中に直言居士ぶりを遺憾なく発揮し、後世に残る改革を行っていたのである。その1つがSA・PA改革だ。
1997年、猪瀬直樹氏の特殊法人批判をきっかけに、当時の亀井静香建設大臣が号令をかけ、それまですべてのサービスエリアを運営していた(財)道路施設協会が2分割されることになり、翌1998年、実行されたのである。
亀井建設相が、道路官僚のトップである道路局長に、「組織を2分割しろ」と命令したところ、東西の2社に分ける案を持ってきたため、「こんなのじゃ競争が起きないからダメだ、サービスエリアを交互に受け持たせるように分割しろ!」と指令した。その結果、(財)道路施設協会は、道路サービス機構とハイウェイ交流センターという2つの団体に分かれ、隣同士のサービスエリアで競争になるよう、交互に配置された。
「こんなことで何か変わるのか?」と思ったが、これが劇的な効果をもたらした。(財)道路施設協会は、建設省⇒日本道路公団に続く天下り団体だったが、それが2分割された「だけ」にもかかわらず、隣のサービスエリアとの競争原理が導入されたことで、突如サービスが活性化したのだ。
それまでは、「全国一律のサービスを提供するため」との謳い文句により、レストランで提供されるカレーのレシピまでがんじがらめだったのだが、分割と同時に時代錯誤な規制が撤廃され、現在のサービスエリア爛熟時代が始まった。
その後、2005年に日本道路公団が民営化されると、SA・PAは、NEXCO各社にとって自助努力で収益を拡大できるほとんど唯一の場となり、さらにサービス競争が激化。現在に至っている。日本のサービスエリアは、民営化によって良くなった部分もあるが、それ以前に、亀井静香氏が号令した分割がきっかけで、大幅に改善されていたのだ。
もう1つは、東京湾アクアラインの通行料金の引き下げである。
1997年12月、つまりちょうど20年前に開通した東京湾アクアラインは、1兆4400億円という巨額の建設費を償還するため、当初は片道5050円(普通車)という、とてつもない料金設定が予定されていた。それを聞いた亀井建設大臣が、「高すぎる!」と激怒。鶴の一声で片道4000円に落ち着いた。
アクアラインの通行料金は、現在たったの800円(ETCアクアライン割引)だから、4000円でも目ん玉が飛び出るほど高いと感じるが、当初予定の5050円を怒鳴り声一発で割り引かせた亀井氏には、他の政治家には見られない力量の大きさがあった。
当時の建設省の償還設計は極めてずさん。まず建設ありきで、予想交通量はそれに合わせて増減させるという、ウソ八百なものであった。アクアラインについては、開通当初1日約3万台の通行を想定していたが、実際にはその3分の1にとどまっている(現在は約4万台/日)。
そういった実態に注目を集めただけでも、亀井氏の鶴の一声は価値があったし、その後アクアラインが800円になるきっかけになったと言えるだろう。今後私は、SA・PAやアクアラインを利用するたびに、亀井静香氏の寝ぐせ頭を思い浮かべ、心の中で感謝したい。
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―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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