ストライキのせいで病院で診てもらえない!
その一方、海外のストライキは「ガチ」である。
雑誌『ふらんす』元編集長・丸山有美(あみ)さん
かつてフランスに暮らしていた際、体調不良で病院にかかったところ病院がストの真っ最中で、何時間も真冬の屋外で待たされたという悲惨な経験を持つ、雑誌『ふらんす』元編集長・丸山有美(あみ)さんは、フランスのストライキ事情をこう語る。
「毎日フランスのどこかでストが起こっていると言ってもいいくらい頻繁に行われています。ヴァカンス中は基本的に行なわないのが特徴ですが……」
ストはどのように始まるのだろうか。
「労働法改正に対する不服、労働条件や労働環境への不満を理由にストが行われることが主ですがそれに限りません。フランス国内には、政治思想や、職階が等しい仲間によって組織されたいくつもの労働組合が、さまざまな企業にまたがる形で存在しています。そういった政治色の強い組合が、政府の決定に反対するたび同時に多業種でストを起こすため社会や経済に混乱が生じやすくなるのです」
フランスでは1946年に労働者のストライキ権が認められた。
日本との大きな違いは、ほぼすべての公務員にもストの行使権が認められていることだ。
「学校の職員、国鉄の職員も参加しますが、
ストに参加する間は減給の対象になるので、必ずしも職場全体で実行するとは限りません。『いろいろ不満はあるけれど目の前の生活のほうが大事』と通常どおり出勤する人もいます。首都パリは世界有数の観光都市ゆえに調整が試みられることもあります。例えば、こちらの有名美術館が閉まってる間、別の有名美術館は営業するとか」
JR東日本労組は「運行に支障はない」と発表している
公共交通機関についても、全路線で行われることはなく一部の路線のみで行われるという。
「運休ではなく間引きや行き先変更、代行バスを運転するといった措置がとられます。交通機関や郵便局などの公共サービスや観光名所、そのほかの大規模なストについてはテレビ、ラジオ、ネットなど事前に実施が報じられますが、それ以外は周知が十分でなく
その場に行って当日にストだとわかり驚愕することも……」
ストが始まると市民はどういう反応をするだろうか。やはりピリピリムード?
「労働者の権利である以上『仕方のないこと』と我慢しています。しかし本音を聞いてみると、怒りの声は少なくありません。それでも、大衆の怒りの矛先は概ね雇用主の側に向けられているのが印象的でした。
『労働者の要求をとっとと飲まないのが悪い』というわけです」
フランスで駅員に暴言を吐くおじさんは少ない
労働法改正反対といった政府に対するストに関しても国民は好意的な視線を送っているようだ。
「社会全体の問題としてこれを捉え、ソリダリテ(連帯)の精神をもって、日常生活に支障があってもストを支持する市民が多い印象を受けました。事故や天災で電車が多少遅れただけでも駅員に個人的な感情をぶちまけて怒鳴る日本人のおじさんのような人は、フランスの交通機関のストでは見かけません。それでも実にささいな、ストと関係ないところで怒りを爆発させて口喧嘩をしている人がいつもより多いような気はしましたが……」
旅行や出張が台無しになるケースも
その一方で、やはりフランス国内にもストに否定的な見方があるようだ。
「約10パーセントの失業率に、運良く就職できても期間雇用の契約社員が多いフランスでは、公務員はいわば特権的な立場の人びと。その彼らが市民に迷惑をかけてまでストを実行するのは、あまりにも傲慢だというわけです」
病院で大変な目に遭った丸山さんだが、ストが起こった際に気をつけるポイントはあるのだろうか。
「交通機関のストに関しては、通勤通学に何倍も時間がかかった、前々から予定していた仕事の約束をすべて見直した、というのはよく聞かれる話です。飛行機の場合は、払い戻しやスト以外の期間の同じクラスの便への振り替えなどが事細かに決められているとはいえ、旅行や出張の計画がすべて台無しになってしまうこともあります。フランス旅行の前には天気・気温の心配だけでなく、スト情報の検索をお勧めします」
ストにあったら「これが風物詩か」と状況を楽しむくらいの気持ちが肝要だと笑う丸山さん。ストライキが再び日本の“風物詩”となる日は来るのだろうか。<取材・文/キンマサタカ(パンダ舎)>