更新日:2018年07月17日 11:13
スポーツ

世界中が高山善廣にエールを送る――強さとはなにか?<最強レスラー数珠つなぎVol.17 最終回>

高山vsドン・フライ戦を見て引退を翻意した鈴木みのる

 2002年、鈴木みのるは追い詰められていた。首の怪我をして、試合に出られない。引退を考えたが、やることも見つからず、金もない。しかしその年の6月23日、たまたまテレビで見たPRIDE「高山善廣vsドン・フライ」戦に衝撃を受けた。ノーガードでの壮絶な顔面の殴り合い。感動した。涙がこぼれそうになった。俺、なにやってるんだろう――。翌年6月、鈴木はこれまで培ってきた格闘技を捨て、プロレス界に復帰する。

鈴木みのる

 古巣の新日本プロレス。唯一、話し相手になったのは高山だった。試合が終わる度に、「俺の試合どうだった?」と尋ねた。そんな鈴木に、高山は言った。「鈴木さんのプロレス、つまらない」――。 「必死に現代の技をやろうとしていたんです、溶け込みたくて。他の選手がやる技をやってみたり、受け身の練習をしてみたり。でも高山は、それがつまらないと言う。技を知らない、受け身が取れない。それが鈴木みのるでしょ、と。だれよりも強いパンチ、だれにも負けないグラウンドテクニック。つまり俺の人生こそが俺の武器だということを教えてくれたのが、高山なんです」  たくさんの話をした。お互いが子供の頃に憧れていた、アントニオ猪木のプロレス。いまのプロレスは、その頃とはまるで違う。こんなに弱い奴らが、なんで偉そうに試合をしているんだ。飼い慣らされた猫じゃないか……。二人は意気投合した。いつしか鈴木は高山のことを、「俺の友達」と表現するようになった。

提供/鈴木健.txt

 二人でプロレス界を縦横無尽に暴れ回った。中でも鈴木が自身のベストバウトの一つに挙げるのは、2015年7月19日、プロレスリング・ノア旗揚げ15周年記念大会。高山は鈴木の持つGHCヘビー級王座に挑戦した。鈴木はパイプ椅子で高山の頭部を殴り、高山は大流血。試合内容に納得しない観客から、リングにゴミが投げ入れられた。しかし鈴木はあの試合を振り返って、「なに一つ後悔はない」と話す。 「もしもあの試合で受けたダメージが現在の彼の状況に繋がっていたとしても、後悔はないです。本人もないと思います。タッグを組んだら一緒に全力で闘って、笑い合って、敵になったら全力で殴り合える。そんな友達、なかなかいないですよ。友達だから全力で殴り合えた。手を抜いたら逆に怒られそうで」  ノアと敵対した鈴木に対し、高山は「俺は三沢さんにお世話になったから、ノア側につく」と宣言。それから二人は会話をしなくなり、プライベートで会うこともなくなった。そして昨年5月、高山の体は動かなくなった。  TAKAYAMANIA設立記者会見で、鈴木は泣いた。泣きながら、高山への募金を呼びかけた。ヒールの中のヒール。通称、“世界一性格の悪い男”。その男は友達のために、日本中の前で泣いた。  高山は、現実を受け入れた。絶望を口にすることはほとんどなく、医師は「精神がとてつもなく強い」と驚いた。しかし治療には、膨大な額を要する。 「1000万円とか噂されていますけど、1年間とかじゃないですから。もっと短いスパンです。お金はいくらあっても足りない状況です。俺の稼ぎを全額つぎ込んでも足りない。高山に勇気をもらったプロレスファンに返してもらうしかないんです。一人1円であっても、日本中の人が募金したら1億円ですから。そうしたら彼は、しばらく生きていける」  募金活動を始めるにあたり、批判も出てくるだろうと想定された。だから鈴木は、「俺が前に出る」と申し出た。自分は偽善者だと言われてもいい。なぜならずっと、批判と逆流と向かい風の中で生きてきたから――。  高山への募金は、彼の家族をサポートするためでもある。しかし、奥さんは生活費をすべて貯金から捻出している。生活のために車まで売ろうとしている。夫のために集まったお金を、私たちが使うことはできない、と。 「アホかと思いますよ。バカ正直な人でね。そのお金で海外旅行に行くわけでもない。ブランド品を買うわけでもない。付き合いが長いんですが、すごく強い女で、だれにも弱音を吐かないんです。普通の人ならぶっ壊れてますよ。さすが帝王の嫁です。でもね、『きつい』って言ってました。『つらい』って、言ってましたよ」  かつて鈴木は、藤原喜明に聞いたことがある。「強さって、なんですか?」。すると藤原はこう答えた。「強さとは、長生き」――。どの競技が強いんだ、だれが強いんだと聞きたかったのに、「長生きしているおじいちゃんが一番強い。死んだら闘えない」と言われた。その考えが、いまの鈴木にはよく分かる。  高山は現状、動くことはできないが、話をすることはできる。ベッドの上の高山は、鈴木に言った。 「鈴木さんは、後悔しないように生きて」
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「強さとはなにか」を追い求めた旅
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尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko

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■TAKAYAMANIA EMPIRE
日時:2018.8.31(金)
会場:後楽園ホール
開場:17:30  
開演:18:30(全7試合)
放送:Abema TV生放送
チケット:Makuake(マクアケ)※クラウドファウンディングhttps://www.makuake.com/project/takayamania2018/
主催:(株)髙山堂/TAKAYAMANIA実行委員会
協力:TAKAYAMANIAの皆様

■高山善廣選手への募金先
【クレジットカード】
(日本語)https://secure.koetodoke.jp/form.php?to=13
(ENGLISH)https://www2.donation.fm/takayamania-en/

【銀行振込】
三菱東京UFJ銀行
代々木上原支店(店番号137)普通預金 0240842
口座名義「TAKAYAMANIA タカヤマニア」
 
みずほ銀行 渋谷中央支店(店番162)普通預金1842545
口座名義:TAKAYAMANIA タカヤマニア
 
三井住友銀行 渋谷支店(店番654)普通預金9487127
口座名義:TAKAYAMANIA タカヤマニア 代表 高山奈津子
 
※通帳は髙山選手の奥様がお持ちになられています。

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