なぜか「発達障害の人ばかり集まる」お店の日常とは?――光武克の「発達障害BARにようこそ」
ここで読者の皆さんは、「メールを開くだけなのに、どうしてそんなに時間がかかるんだ?」と思ったんじゃないでしょうか? けど、それが僕ら発達障害の人がもつ“特性”なんです。 いわゆる健常者である「定型発達」の方が普通にできることでも、僕らにとっては普通じゃないことがたくさんあります。身体障害とちがって、発達障害の場合、「これが障害だ」とハッキリ見えるわけじゃない。それが発達障害特有のツラさにもなっているんです。
光武「だから、できない部分を認めてしまうのも仕事をするうえで必要なことかもしれないですね。自分の能力に合わせて働き方を調整するというか、自分を変化させていった感じだと思います」
そのとき、ガンッ!という音が店内に響きました。「すみません……」と謝るスタッフの声。どうやらコップを床に落としたようです。でも、実はこれは当店では日常茶飯事の光景で、一日に同じようなことが何度も起こります。
発達障害(ADHD)の特性の一つに、注意力が散漫になることがあります。ざっくり言えば「人一倍おっちょこちょい」という感じです。だから当店のコップはスタッフやお客様が何度落としてもいいように、プラスチック製のものを使っています。
というわけで、何食わぬ顔で会話に戻りましょう。
光武「ところで森永さんは、仕事のどんな部分が合っていないと思うんですか?」
森永「どこって具体的な話じゃないんだよね。漠然と合ってないかなぁって感じるって言えばいいのかな。しっくりこない感じなんですよ」
光武「僕の場合、正直な話をすると、予備校講師が自分に合っているかどうかなんて考える余裕はなかったんですよ」
森永「というと?」
光武「大学中退から、離婚に至るまでなかなか波乱万丈な人生でしたからね(笑) 。4年生の時に就職活動をしても、まったく身に入らなかったんですよ。働きたくなかった。いや、このまま働いたら死ぬって思ったというのが正しいですね。どうしても自分がサラリーマンになるイメージが出来なくて引きこもりになっちゃったんです」
森永「そうなんだ……」
光武「ええ。そうこうしているなかで大学も行けなくなってしまって。でも生きていかないといけないから何とかアルバイトだけはやっていたんです。それが予備校講師だっただけで。だから僕の場合、最初から予備校講師になりたかったというより、予備校講師以外に選択肢が見えなかった。でもADHDの注意欠陥や先延ばしするクセは一切変わっていないわけだから、仕事でも時間管理ができずに、いくつも大失敗をしました。当時を知る友達からは『よく生活保護受けなくてすんだな』と笑われていますよ」
森永「それはなかなかひどい(笑) 。光武さん、よく生きてたね」
光武「はい、皆さんよくおっしゃいます。生きていることが奇跡だって」
森永「僕は、人にはもともと“天職”が決まっていると思っていたので、自分にはどんな職が合うのか悩んでいたけど、その話を聞くと考えるのがバカバカしくなってきたよ」
光武「ふふ、そうでしょうね。一見するとまともに見える人だって、思った以上に苦労を背負っていることを想像すると、きついのは自分だけじゃないなって気持ちが楽になるものですから」
森永さんとの話を通じて改めて思ったのは、「運命」ってものを僕は信じたくない人間だということです。なぜなら、もし「運命」があるのなら、僕や森永さんが抱える発達障害の当事者としての苦労だって「運命」だということで片付けられてしまいます。そんなバカな話はない。誰だって同じように困難な状況を前にしてあがいているんだし、そして、苦しいのは自分だけじゃないと思えるとき、ちょっとだけ気持ちがやすらぐのではないでしょうか。
新しく用意したハイボールを口にするたびに、森永さんの顔つきは少し穏やかになっていました。最後の一杯をゆっくりと飲み干して、「ごちそうさま」と帰路につく――。今夜もまた、第二、第三の森永さんがウチにいらっしゃるかもしれません。そんな出会いを楽しみに、今日も僕はカウンターに立っています。
今回はご愛読、誠にありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。
*お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。
<文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>
―[発達障害BARにようこそ]―
(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats」 1
2
|
|
『発達障害グレーゾーン』 徹底した当事者取材! 発達障害“ブーム"の裏で生まれる「グレーゾーン」に迫る
|
■姫野桂氏の新刊発売記念イベントが開催!
12月20日に姫野氏の新著『発達障害グレーゾーン』の発売記念イベントが開催される。特別協力として関わった「OMgray事務局」のオム氏、株式会社LITELICOの鈴木悠平氏を招き、3人が「発達障害っぽさを抱えて生きる方法」についてトークする。
【日時】12月20日(木)19時開演(18時45分開場)【場所】神保町「書泉グランデ」7Fイベントスペース
【参加方法】姫野桂 著「発達障害グレーゾーン」(820円・税別)を1Fでご購入いただいた方に、参加券を配布(定員50名)
【予約】電話(03-3295-0011)・メール(grande@shosen.co.jp)で予約可能
*詳しくは書泉グランデHPで(https://www.shosen.co.jp/event/89535/)
【関連キーワードから記事を探す】
“歴代の女子社員のなかで一番美人”と話題のセクシー女優がデビューを決めたワケ「女子社員シリーズへの憧れがあって…」
26歳の役員秘書がセクシー女優になったワケ「SODに入社して会社に行ったら、女優さんが撮影をしていたり…」
「雇われる副業」より「自分で稼ぐ副業」が断然有利!会社員のための“6つの個人事業型副業”とは
「リストラを始める会社」の予兆チェックリスト。業績低迷、給与カットの前に見抜くには
「黒字なのにリストラ」する企業が急増中の理由。誰もに迫る“クビ”の恐怖
胸が大きすぎる女性が「日常生活で困ったこと」。子供向けの下着が入らない、走ると痛い…それでもポジティブでいられたワケ
「Hの“二回戦”」はアリ?ナシ? 普通の20代女子100人に聞いてみた結果は…
悩みから抜け出す最速の方法は「誰かに話すこと」
発達障害者が教えてくれた「仕事ができないコンプレックス」との向き合い方
「自分の仕事で世の中を変えたい」と思っている人へ/コーチャー佐々木 の「魂が燃えるメモ」
鳥居みゆき「生きづらいのがデフォルトなんです」作家・こだまと語る“普通”という世間の物差しに対する違和感
「専門学校を強制的に退学させられた」30歳女性の主張「事前に自分が発達障害を持っていることを申告したのに…」
大炎上した書籍を最後まで読んだら「衝撃の大どんでん返し」が待っていた 。「散々、人にレッテル貼りしておいて…」
「困った人」を動物に例えて炎上した本の中身を検証。当事者会代表「職場を混乱させる恐れ」、弁護士「記述された対策の誤用でパワハラに」
「ADHDは手柄横取り」「ASDは異臭を放ってもおかまいなし」職場心理術の新刊が物議。「職場での“誤った診断ごっこ”に繋がるだけでは」当事者会代表も懸念
この記者は、他にもこんな記事を書いています





