リハーサル直後、楽屋裏では…
ここで時間を少し巻戻し、リハーサルを終えた本番までの楽屋の様子をハイライトふうに紹介しておこう。
出番を待つ没イチ・メンズたち
スタイリストから「シャツは脱いで、直に着てくださいね」と呼び止められた池内さんが、
「ああ、そうなの?」
「はい。下着は見えないほうがいいので」
「ふだん、そういう着方はしないからなぁ」
池内さんが着用しているのはグループサウンズを思わせるファッション。
「なんかガイコツみたいだなぁ」
ひょうひょうとした態度の池内さんは、以降のメイクもなされるがままだ。スタイリストの塩崎良子さんに、ジミな印象の池内さんに、ハデハデしいシャツを選んだ理由をこっそり訊ねてみた。
「髪の毛が白くてボリュームがあってヒンがある。イギリス貴族のイメージが合うと思ったんです」
それを池内さんに伝えると、「ああ、そうですか。ほぉっ」とホクホクの笑顔に。
花を手にした田中嶋さん
出番直前。「1分30秒。何やって間をもたせようか」とランウェイでの自己演出を考え、切り花を入念に選んでいた田中嶋さん。楽屋でも「思い切って肩からひっぱってみようか」と上着を脱ぎ、すばやく肩にかけようとするが、思うようにいかず何度も練習を重ねていた。
メンバーたちに出演への思いを訊くと、「(没イチ会に)男は6人しかいないんで。もっとイッパイいたら、『俺はちょっと(遠慮しとくよ)』とか言えるんだけど」と不承不承感を漂わせながら、仕草を研究する田中嶋さんに、普段着もちょっとオシャレな佐藤さんが、「でも、結果的に楽しんでいますよ」「ええっ。そうぉ。ぜんぜん楽しくないよ、俺は」と田中嶋さんがまぜっかえすのだが、声が弾んでいる。
リハーサルの様子を見つめるウォーキングレッスン担当の濱田玲子さん
中でも際立っていたのは、ガイコツ柄の池内さんだ。「没イチ会」では幹事役もしている。じつはプレス用の池内さんプロフィール写真が、こう言っては失礼だが妻に先立たれた、ショボくれたジイさんの典型に見えた。ご本人にもそう伝えると、「そうでしょうね」と笑い返された。だからこそ、筆者はこのひとが変身する瞬間を見たいと思ったのだ。
「ああ、そうですか」
率直な疑問をぶつけてみた。妻に先立たれた直後、落ち込んだり、今後の生き方に悩んだりはしなかったのだろうか。
「うーん……。妻はタイが大好きで向こうのシルクを使った仕事をしていて、退職後には手伝う計画だったのがくるってしまいましたから。どうしようというのはありましたね。セカンドステージ大学に2年間通って、ちがう世界の人たちと出会って、変わったとしたらそれからですよね。話していて楽しい。それまではもう会社人間でしたから」
とはいえ、まだ60代。再婚は考えないのだろうか?
「考えていないです。ひとりのほうがいいですから。友達がいますし。ふたりになるというのは、もう一回いろんなことをやりなおすということですから。それより友達をつくるほうがいい」
筆者は、ヴェルサーチを見事に着こなした池内さんの姿に驚いた。
「わたしも見て、びっくりしました。もう、お任せですから。ハデだとは聞いていましたが(笑)。こんなの自分じゃ選びませんから。でも、似合っているとか言ってもらえると、なんかワクワクはしますよね」
顔つきが変わったように思えた。メイクの方が、眉をちょっといじることで目に力が入るとも言っていた。
「そうですか。生まれて初めてメイクをされましたからねぇ。次は“死に化粧”でしょうけど(笑)」
本番前、メイクを施す様子
ステージでの歩き方も様になっていた。イッセー尾形に似ているとも思った。
「尾形さん……。何をするひとですか? ひとり芝居の俳優さん。ああ、そうですか。歩き方は、意識はしていないです。前をちゃんと見るぐらいですかねぇ。まっすぐ前を歩こうと」
左手から覗き込むのはスタイリストの塩崎さん
楽屋に息子さんがやってきて、つい照れ隠しなのか、ビールを飲み足していた三橋さん。
仕事一途のエンジニアで、家事はすべて妻任せだった。いまだにサイズがわからず新しい服が買えないという父親に、息子は、「仕事人間でしたから。おふくろが亡くなったばっかりのころには、食事はお湯を沸かして入れるくらいのものばかりで」とさめた口ぶり。でも、年に数回しか顔を合わすことのない息子を前に「ザ・昭和の男」は喜んでいるように見えた。
その三橋さんがステージソングとして選んだのは「スタンド・バイ・ミー」。出番直前、右指を鳴らすしぐさを繰り返していた。
第2部ランウェイ 庄司さん
同 田中嶋さん
同 池内さん
同 三橋さん
庄司さんを先頭にフィナーレ