ニュース

「あなたダメッダメですね」美人検察官の愛のある説教<薬物裁判556日傍聴記>

 もちろん被告に対しても、この舌鋒は健在です。 犯罪者検察官「では検察官から質問しますが、少年院に3回入って、窃盗でもお父さんに示談してもらって、その度ごとに、少しはあなたの心に響くんですか? お父さんのしてくれていることとかは」 被告人「素直に接していけなかった面があったと思います。昔と比べたら少しは改善できたと思います」 検察官「あなた自身ね、先程もお父さんに聞きましたけど、何でここまでボロボロというか、生活の乱れとか、悪い道に入っちゃったのかの原因というのは自分でわかっているんですか?」 被告人「こうして何回も犯罪を繰り返してきて、それを繰り返す度に家族と上手く話せなくなっていく自分がいました」 検察官「あなた今何歳ですか?」 被告人「21歳です」 検察官「15、16の子供じゃないんだから、夜中に悪い仲間と、どっか行って薬やって、そんなことが楽しいなんていう時代は過ぎましたよね? それ自体も問題だけれども、21にもなってそんなことしていること自体が全然かっこよくないし、恥ずかしいことしているってわかります?」 被告人「はい」 検察官「大人になるってどういうことですか?」 被告人「周りの人に迷惑かけずに、自分で自立して生活したりしていくことです」 検察官「督促状も来ていたってお父さんからありましたけど、公共料金の支払い、税金の支払い。保険の手続き、そういうのも自分でやらなきゃいけない。そういうところから自分で始めなきゃいけないってわかっています?」 被告人「はい」 検察官「きちんと働いて、家に帰って、普通の暮らしを毎日繰り返すだけで、お父さん喜んでくれるわけじゃないですか? 別に何も最初からハードル上げて、お父さんの老後の資金まで貯めようなんて考えてくれなくたって、あなたが犯罪しないで、毎日普通に生活してくれるだけで、喜んでくれるわけでしょ? そんなに難しいこと?」 被告人「違います」 検察官「以上です」  この検察官は言葉遣も若干若く、それも個人的にはおもしろかったですね。また、この裁判は、裁判官も被告に長く心のこもった話をするなど、「裁判官は法廷で感情を持ってはダメ」という先入観を改めさせられる印象的な傍聴になりました。  この日、被告人の来ていたスラックスとシャツは、被告人の父親が用意したもの。被告人は保釈されなかったため、拘置所か留置場で差し入れたものと思われますが、サイズがとてもぴったり合っていて、父親の愛情や洞察力も個人的には感動のポイントでした。  ただ、冒頭で紹介している前回の法定「恐るべき茶番劇」でも、「美人検察官、また裁判官からの心のこもった説諭が聞ける法廷」でも、大麻取締法違反被告事件の両者の判決は「主文、被告人を懲役6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する」と同じ。では両者の法廷の違いには、果たしてどんな意味があるのでしょうか。              ***  今度の判決は「懲役6ヶ月、執行猶予3年」。これは初犯の大麻の不法所持の一般的な判決で、武石健一の判決もその類に漏れない。だが、それが職業的な演出を含んだものであったとしても、法廷で「大人になるってどういうことですか?」と問うた検察官を、被告は生涯忘れることはないのでないか。それが更生につながるかどうかはまた別の話だが「成人時に犯した窃盗で有罪判決が下されていたら、執行猶予がつき今回彼は刑務所に行くことになったはず」とは、この判決についての斉藤さん談。窃盗の逮捕の際も、息子の罪の軽減のため奔走したのは父親である。親の愛情はありがたいものだ。 ※斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。(https://note.mu/so1saito/n/n991476c2280a) <取材・文/斉藤総一 構成/山田文大>
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ