更新日:2019年01月25日 17:34
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「あなたダメッダメですね」美人検察官の愛のある説教<薬物裁判556日傍聴記>

 過去に身に覚えのない薬物事案の容疑で家宅捜査を受けたという斉藤総一さんは、そのガサ入れをきっかけに薬物裁判を556日傍聴し、その法廷劇の全文を書き取ったという。前回前々回に続き、今回もいわゆる大麻の不法所持についての裁判だ。前回紹介した裁判の被告は平成生まれの男性会社員で、大麻ワックス約0.5gを所持した容疑だった。この裁判は法廷の前で弁護士が被告に「結論ありきだからリラックスして」と耳打ちする、“茶番”とも見えるものだった。 今回の裁判の被告は前回と同じく平成生まれだが、こちらは無職。大麻草4g程度を所持した罪で逮捕された。大麻草の成分を抽出したものがワックスだと考えれば、両者にそれほどの違いはないように思われる。だが、今回の裁判は気の抜けたものではない。いわば「エモい」法廷劇だ。この裁判について斉藤氏は「50分の予定の裁判が約1時間10分(70分)と20分もオーバーした」と印象を書き残している。ちなみに斉藤さんによれば、この法廷の立役者(と言っていいだろう)女性検事はとても美人だそうだ。              ***
斉藤聡一さん

斉藤聡一さん

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。  今回は冒頭の裁判官による開廷の手続きから紹介しましょう。 裁判官「それでは開廷いたします。被告人は証言台の前に立ってください。始めに名前などの確認をします。お名前はなんと言いますか?」 被告人「武石健一です」 裁判官「生年月日はいつですか?」 被告人「平成7年8月3日です」 裁判官「本籍はどこですか?」 被告人「東京都荒川区南尾久7-○」 裁判官「住所はどこですか?」 被告人「東京都荒川区南尾久7-○-25 スカイブレイド尾久×号室」 裁判官「今何か仕事をしていますか?」 被告人「いえ。していません」 裁判官「それではあなたに対する大麻取締法違反被告事件について審理をはじめます。起訴状という書類は受け取っていますね?」 被告人「はい」 裁判官「これから検察官がこの起訴状を読み上げます。後でその内容について事実と違うことがあるかどうかを尋ねますので、よく聞いていてください」 検察官「公訴事実。被告人はみだりに平成28年5月3日。東京都荒川区南尾久5-○-15、ローソン南尾久店の駐車場に駐車中の自動車内において大麻である乾燥植物片4.304gを所持したものである。罪名及び罰条、大麻取締法違反、同法第24条の2第1項」  続いて、検察の冒頭陳述。 検察官「検察官が証拠により立証しようとする事実は以下のとおりであります。まず第1に被告人の身上経歴などですが、被告人は中学卒業後、建築作業員などの職を転々として、犯行時は無職でした。被告人には婚姻歴はなく、犯行当時は父親と住居地に居住していました。被告人には少年時に傷害等の前歴が5件あり、うち3件は少年院に入院。成人してからは、窃盗の前歴1件があります。続いて第2に犯行に至る経緯および犯行状況などですが、被告人は平成23年頃に初めて大麻を使用し平成28年4月頃からは、継続的に大麻を購入し使用しており、同年4月にも氏名不詳者から大麻を購入しました。被告人は5月3日午前0時頃、友人が運転する車に乗車し、その後、後輩である『山木晴美』と合流しました。前記山木が乗車した後、被告人は自らが持っていたウエストポーチを前記山木に、『警察に声をかけられても、ヤバいものが入っているから見せるなよ』など言いながら手渡しました。犯行状況は公訴事実記載の通りであります。同日午前1時15分頃、前記車両に同乗していた女性山木を不審に思った警察官が被告人らに対して職務質問、所持品検査を実施したところ、前記ウエストポーチ内から大麻が発見されたため、被告人および前記山木は現行犯人逮捕されました(後略)」  この後の請求証拠のなかで検察は「職務質問および所持品検査が任意であったこと、またウエストポーチについて、『女に渡したのは俺だ』と述べていたことが明らかとされております」と読み上げます。自分が持っていると怪しまれるという配慮も空しく、結果は変わらなかったようですが、すぐにバレる嘘をつかない程度の分別はあるようです。 もっともそれは「被告人には少年時に傷害などの前歴が5件あり、うち3件は少年院に入院。成人してからは、窃盗の前歴1件」という経験を通して身についた、最低限心証を悪くしない分別と言えるかもしれませんが。とはいえこの前歴自体、当然かなり心証が悪いものではあります。  被告の父親が証人として出廷し、弁護士の質問を受けた後、美人検察官の質問が始まります。 検察官「はい。それでは検察官のほうから質問しますが、お話をうかがって、こんなこと言うのもあれなんですが、息子さん相当ダメッダメですよね。どうしてこうなっちゃったかって、お父さんが考えることはありますか?」 証人「本人の意志に任せすぎた」 検察官「どのへんから道を間違っちゃったんですかね? 小学生のときから嘘つきとかだったんですか? そういうわけじゃないんですか?」 証人「中学2年生頃から行動が不安定になりました」 検察官「理由で思い当たることはあるんですか?」 証人「本人が何か心に残る嫌な経験がもとになっていたんだと思います」 検察官「聞いたことはないんですか?」 証人「母親が聞きました」 検察官「何だったんですか?」 証人「クラブ活動のなかで、顧問の方から、嫌な思いをしたという風にうかがっております」 検察官「それをきっかけに、いろいろ生活が乱れ始め、付き合っちゃいけない人達と付合うようになり、先程述べましたけど、高校1年生の時に大麻って、相当薬物へ手を出したがの早いですね。お父さんのほうでは大麻使っているっていうことは知っていたんですかね?」 証人「まったく知りません。」 検察官「大麻も依存性があるので、社会復帰した時にはきっと、また一緒に、お父さんは住まわれるんですかね? 健一さんと」 証人「はい」 検察官「そうすると大麻には依存性があるので、まあ定期的に部屋を探したりしなきゃいけない。そういう風にやっていかないと防げないと思うんですけど、そういうことで考えていることはあります?」 証人「今はよく変化を見続けることしかできることはありません」 「ダメッダメ」という言葉を使うなど、相当説教に近いような感じですが、現地ではどこか心がこもっていて愛のある説教という印象も受けました。ただ、これは本心でアツくなって出てしまった本気の言葉なのか、それとも検察官の仕事術として、仕事モードとして感情なく、そういうことを普通に言えるのか。個人的にはそのあたりが気になる裁判でした。
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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