大麻違法所持の裁判で見た「恐るべき茶番劇」<薬物裁判556日傍聴記>
―[薬物裁判556日傍聴記]―
身に覚えのない家宅捜査をきっかけに、薬物裁判を556日傍聴し、その法廷劇の全文を書き取ったという斉藤総一さん。556日も裁判の傍聴に通い続けるようになり、それだけでなく、彼は文字通りその法廷劇のやりとり全文を書き取ってきた。これまでに4件の裁判を紹介してきたが、今回も引き続き大麻取締法違反。いわゆる「大麻」の不法所持だ。すでに報道で取り上げられたこともある、樹脂状の大麻、いわゆる「大麻ワックス」所持での逮捕である。
※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。
今回の裁判の被告は北山洋平。平成生まれの会社員の被告で、仕事のストレスから見知らぬ黒人から大麻を入手したという話です。通常の裁判では検察官による公訴事実の読み上げから始めるのですが、今回は裁判が始まる前の法定の入口ドア前、被告人と弁護人の会話から紹介しましょう。
弁護人「これ執行猶予が確実になる裁判です。だからあまり緊張なさらずに」
被告人「はい」
弁護人「執行猶予は確実です。即決裁判なんでね。確実なんだけれども、ただ次何かやっちゃうと、刑が上乗せになってしまうので、気をつけてください。じゃあ一緒に入りましょう」
被告人「はい」
このやり取りからも、すでに結論ありきの裁判であることがうかがえます。それではこの裁判を開廷する意味は果たして何でしょうか。
裁判官「では検察官、起訴状の朗読をお願いします」
検察官「はい。公訴事実。被告人はみだりに、平成28年10月19日、神奈川県横浜市中区山本町1-18番地12号、被告人方において、大麻成分である、テトラヒドロカンビナ…嗚呼、テトラヒドロカンナビノールを含有するペースト状の物0.47gを所持したものである。罪名及び罰条、大麻取締法違反、同法24条の2第1項」(検察・起訴状)
次に内容の説明。もう少し検察官の言葉に耳を貸しましょう。
検察官「(前略)。続いて犯行状況などについてです。本件犯行内容は大麻の所持ということになります。10月19日に、被告人方の捜索差押を実施した際に、0.470gの大麻が発見されまして、捜索時に同室被告人の父親から任意提出を受けて領置をしております。25日に鑑定をして、その結果、大麻成分を含有するということで鑑定結果が出ております。押収関係については甲1号証から甲3号証、鑑定嘱託、鑑定結果については甲5号証と甲6号証。本件大麻の形状については写真撮影報告書の甲4号証が明らかとなっております。使用歴については19歳頃から大麻を使用していたむね被告人は供述しています。入手先については平成28年の8月の下旬頃に、黒人男性から購入したという風に供述しております。甲7のブツを示してもよろしいですか?」
検察官は被告人が所持していた「大麻のペースト」を示し、被告人もそれを認めます。この後、今度は被告人と弁護人のやり取りに続きます。
弁護人「まず今回、先程、公訴事実を検察官が読んだと思いますけども、これは間違いないということで、よろしいですね?」
被告人「はい」
弁護人「今回あなたが持っていた大麻ですけども、これはどうやって入手したんですか?」
被告人「はい。えっと8月の終わりの土曜日、日にちまでは覚えていないんですけど。その日はクラブに行ってて、クラブをはしごして、次のクラブに行く途中に声をかけられて買いました」
弁護人「そこで黒人からもらったということでいいんですか?」
被告人「はい」
弁護人「その黒人はあなたと知り合いでしたか?」
被告人「知り合いじゃないです。その日初めて会いました」
弁護人「その黒人が、あなたに対して、大麻成分が含んでいる物を『いるか? いらないか?』ということを向こうから言ってきたということで、いいんですか?」
被告人「はい。向こうから」
弁護人「自分から大麻を渡してくれるような人に会いに行ったわけじゃない?」
被告人「そういうことじゃないです。たまたま」
弁護人「次に動機について聞いていきますけど、今回その大麻成分が含んでいる物を所持してしまった理由は、使用するためですか?」
被告人「そうですね。はい」
弁護人「なんで大麻を使用してしまったんですか?」
被告人「はい。当時は仕事のストレスがあるときに吸ったりしていました」
弁護人「仕事とかでストレスがあったときに使ったということですが、今後、それをまた同じように大麻を使ってストレス解消するわけにはいきませんよね?」
被告人「はい」
弁護人「今後はどういう風なことをしていこうと思いますか?」
被告人「はい。自分は身体を動かすスポーツが好きなので、野球やったりとか、はい、スポーツをしようと思います」
弁護人「大麻のことについて聞いていきますけど、大麻に依存性があることは知っていますよね?」
被告人「はい」
弁護人「今後また大麻を使いたいと思っちゃったときが仮に出てきた場合、あなたはどうしますか?」
被告人「もし、そうなってしまったら病院に入るという覚悟があるので、病院に入ります」
弁護人「自分で何か調子が悪いなと思ったときは、必ず病院に行ってください」
被告人「はい」
弁護人「今回あなたは、普段両親と住んでいるということでいいですか?」
被告人「はい」
弁護人「今回の罪に関して、お父さんは何と言っていましたか?」
被告人「最終的には今回こうして捕まってよかった。これで早く懲りて自分が反省してくれればと言ってくれて。絶対にもうこういうことがないように生活していきますと話をしました」
弁護人「今後お父さんも、あなたが同じ再犯をしないように監督していくということですけども、そういう風な、お父さんの気持ちに対して、あなたはどういう気持ちですか?」
被告人「はい。本当に申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいです」
弁護人「もう二度と同じようなことをしないのが必要ですよね?」
被告人「はい。それは、やはり、もちろん二度としません」
弁護人「私からは以上です」
ここで交わされるやり取りから、弁護人の真実を明らかにしようといった姿勢、また被告人の改心の意を読み取るのは正直無理があるのではないでしょうか。まず世間一般の社会人が、声をかけてきた「見知らぬ黒人」からいきなり大麻(それも、世間ではそれほど一般的ではないペースト状のもの=「大麻ワックス」)を購入するのか。
入手経路、ストレスを今後はスポーツで発散するという発言、両親についてのくだりなどなど。出廷前の弁護人と被告人の言葉を鑑みると、これらのやり取りすべてが一層白々しく聞こえます。
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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