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「今年はいい年だったなあ」と喜ぶ3つの基準とは/鴻上尚史

美味しかった長崎チャンポン

 三つ目は、『ほがらか人生相談』の連載を始めたことです。ネットを見てくれている人もいると思います。本来は、朝日新聞出版の『一冊の本』という雑誌の連載です。やがて、本になると思います。  四つ目は『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』が、20万部を超えるベストセラーになったことです。はい。もちろん、人生初めての部数です。これは、やっぱり、9回特攻に出て、9回帰ってきた佐々木友次さんの凄さだと思います。じつは本にするなんていう気持ちはまったくないまま、ご存命だった佐々木さんに会いに札幌の病院に行きました。何度かお会いして、佐々木さんの人生を知っていくうちに「この人のことを絶対に日本人に伝えたい」と思うようになったのです。  五つ目は、『ローリング・ソング』が上演できたことですが、もうひとつ、分かる人には分かると思いますが、ANAのスーパーフライヤーズカードを手に入れられたことです。いえ、分からない人には何も分からないと思いますが、とにかく嬉しかったのですよ。  で、「七味」ですわ。はい。はたと、ここで止まるのです。これは、俺だけなのだろうか。あなたはどうですか? ちゃんと今年初めて食べた美味しいもの、七つも覚えてます?  というか、七つも今年初めての美味しいものに出合えるのか? これがどうにも、僕は苦手です。どうして江戸時代の人は、七つもあったんだろうか? 娯楽が少ないから、食べものの喜びをしっかりと覚えていたのでしょうか。  いろんな仕事をし過ぎるぐらいしていますが、食べるものはだいたい同じです。いえ、もちろん、今年初めての美味しいものをいくつかは食べているはずなんですが、あんまり記憶にないのです。あ、長崎に講演会に日帰りで行って、楽屋で出された長崎チャンポンは美味しかったなあ。ひとつありました。  さあ、あなたはどうですか? 今年最後に立ち止まって思い出してみませんか? これが、この原稿が一番言いたいことです。はい。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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