「今年はいい年だったなあ」と喜ぶ3つの基準とは/鴻上尚史
― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
1年が終わりますなあ。1年の終りには、やっぱり、亡くなった江戸風俗研究家の杉浦日向子さんの「七味五悦三会(ひちみごえつさんえ)」を思います。
はい。ずっとこの連載を読んでいてくれているあなたなら、もう分かるでしょう。
江戸時代、庶民は除夜の鐘を聞きながら、今年初めて食べた美味しいものと、今年あった楽しかったことと、今年初めて会って嬉しかった人を思い出し、味なら七つ、楽しいことなら五つ、人なら三人という条件を満たしたら、「今年はいい年だったなあ」と喜ぶという風習です。
SPA!の年内最後の原稿になると、いつも、このことを思い出します。で、ここ数年、いつもこの「七味五悦三会」を振り返っています。
仕事がら、いつも簡単にクリアするのが、「三会」です。これは、幸福なことかもしれません。
今年は『ローリング・ソング』という芝居をして、久野綾希子さん、中山優馬さん、森田涼花さんという三人と出会いました。『虚構の劇団』の公演では、秋元龍太朗、橘花梨、一色洋平の三人に会いました。
本当は顔合わせとかで去年会っていますが、実質、深く知り合ったのは今年なので、今年にします。
全員、会えて本当に良かった人だと思っています。
特に、久野さんから伺った、劇団四季が『キャッツ』を始めて、ミュージカルのロングラン公演に舵を切った時期の話は、ぞくぞくするほどスリリングでした。やっぱり、渦中にいた当事者の話は、伝聞とか記録とは違って本当に面白いものです。
「五悦」は、まず、還暦のサプライズ・パーティーです。
生まれて初めて「サプライズ・パーティー」というものを経験しました。「取材です」と言われて、部屋に入ったらクラッカーが鳴りました。本当に、頭が一瞬真っ白になるんだということを具体的に経験しました。
二つ目は、『オールナイトニッポンPremium』というラジオ番組を三カ月担当できたことです。
昔の懐かしいリスナーとも再会したし、新たなリスナーとも出会いました。「くたばれ文春砲」というコーナーで、絶賛不倫中のリスナー達を応援しました。
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