更新日:2023年03月12日 08:45
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初期衝動でスプレーを持って街に出た男。彼に待ち受けていた「代償」と「制裁」<グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話>第4回

グラフィティ風アートに対する怒り

「ストリート・アートのグラフィティ風の作品。あれは許せない。やっぱり。『気持ちが悪い』ってグラフィティ・ライターはみんな思っているし、『逮捕されることがかっこいい』ということではなくて、そのリスクの上にグラフィティっていうのは成り立っているんで。そのリスクがなければ、もうグラフィティじゃない。それをまったく抜きに飛び越えて、おいしいところだけを持っていく『アーティスト』にはイラっとしますよ、そこは。例えば、店に許可をもらってシャッターにスプレーで書くだけのストリート・アーティストとかね」

VERYONEが参加している2人展の会場。記者が訪れたときは「タコ焼きパーティ」が行われていたが、作品に臭いがつくため固いギャラリーではありえない「ストリート感」に満ち溢れていた(念のため、若い作家の個展のパーティなどでは別にないことではないが)

 もちろん、ヴェリーさんは今は許可を得たうえで書いた「作品」を発表しているが、そこには矛盾がない。現代アートとグラフィティの関係を、今回、取材にアテンドしてくれた大阪の美術関係者A氏に解説してもらおう。 「アートがいいとか悪いとかじゃなくて、全然、別の文脈なんですよね。グラフィティとアートは。グラフィティはストリートが学校みたいなものじゃないですか。ある種の『遊び』と言うと語弊がありまくりますが、彼らはヴェリーくんが今、言ってきたようなリスクをとりながら、センスを競い合っている。僕も美大卒で、こういうストリートカルチャーを知らなかったから、『美術で大学に行かなくても、センスを競い合える場所はあったんだな』というのは、正直、驚きでしたよね」  A氏は美術に携わる人間として、「グラフィティへのリスペクトはある」と公言する。 「僕もそういう場所にいましたから、わかるんですよ。現代美術の人たちは決して声を大にして言いませんが、いつも美術館やギャラリーでやっていて、今はそこから外に出ようという流れがもう数十年続いている。いわゆる地域アートでもストリート・アートでもなんでもいいですけど、でも、グラフィティのほうが、もうとっくに美術館、ギャラリーの外部でやっていて、別に美術館に絵を観に行かなくても、『あ、ヴェリーの“絵”、ここにある』とか『こんなところに書いていて、センスがいいな』とか、誤解を恐れずに言えば、ストリートの現場の楽しさがある。まぁ、取材ということなら、匿名じゃなきゃ言えませんがね(笑)。これは街が美術館、ギャラリーと反転しているわけですから、『現代美術の人たちも本当はこういうことがしたかったんでしょ』となっちゃうんですよね」  この話を聞いて、かつて横浜で撮影したステッカーのことを思い出した。「アートヲムリョウデ…ロジョウデコテン…」とそこには書かれており、私も「なるほど、『路上展示』という意識でグラフィティやステッカーを街なかにBOMBしている人たちもいるのだな」と思ったものだ。

2017年12月に記者が横浜で撮影したステッカー。かねてから「アートの文脈でやっている人もいるだろうな」とは思っていたが、このステッカーの「アートナンデス」の言葉にある種の納得感があったのも事実だ

 そして、A氏は「ヴェリーの”絵”」と言ったことに即座に訂正を加えながら、解説を続けてくれた。 「今、『絵』って言っちゃったけど、『グラフィティは文字だから、あれはアートじゃない』という人もいるんですよね。でも、そんなくだらない話や定義づけよりも、行動としてはグラフィティのほうが現代アートの先を行っちゃってる。それはヴェリーくんが言ったことの蛇足になるけど、それこそ逮捕のリスクとかの『物語』があるし、街アートみたいなもので、それは越えられないでしょう」  これらの話を受けて、「では、ヴェリーさんはアーティストなんですか?」と本人に意地悪く聞いてみると、「まぁ、アーティストでしょう」と意外な答えがすぐに返ってきた。 「『文字書き』でも、アーティストはアーティスト。やっぱり、色を塗って、きれいにして仕上げてみると、グラフィティを『アート』と言われれば『アートだよな』と思うんです。だから『アートじゃない』と言われても、ちょっとなんか難しい話ですよね。ただ、やっぱりグラフィティとアートとは、本当にちょっと相容れないところはあるんですよね」  このヴェリーさんの言葉に対し、A氏はさらに補足を加えてくれた。 「ストリートでやっていないアーティストが、グラフィティのデザインの良いとこだけを取ってて、見た目だけストリートっぽい感じでギャラリーで展示していたりしたら、そりゃあ、ライターはムカつくでしょう(笑)。誰とは言いませんがね」  誰のことだろう? さて、では我々も分かっていない「グラフィティ・ライターのストリートの流儀」とはなんなのだろうか? 次回は、ここに迫っていく。 取材・文・撮影/織田曜一郎(週刊SPA!)
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現在、VERYONEが大阪にて二人展に参加中。
『コンフティレイヤー シンクロニシティする異文脈』
VERYONEとTai Ogawa/小川泰
大阪市中央区千日前2-3-9味園ビル2F
「TORARYNAND」にて開催中
3月2日(土)~3月29日(金)
水木金土開場19:00~last エントランスフリー(1D別途)

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