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初期衝動でスプレーを持って街に出た男。彼に待ち受けていた「代償」と「制裁」<グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話>第4回

ヴェリーさんの「お仲間」の言葉に含まれていた感情

 実際、今回の取材でヴェリーさんの「お仲間」にお会いさせてもらったときにもグラフィティの違法性について尋ねると、「まぁ、いろいろとありましたけどね。でも、軽犯罪ですから。ええ、いろいろありましたけど」と穏やかに語ってくれた。ヴェリーさんもそうだが、私の出会ったグラフィティ・ライターの人々(といってもほんの数人だが)は「きっと荒くれ者なんだろうな」という勝手に抱いていたイメージとは真逆な穏やかさを湛えているのが、とても意外だった。  そして、初対面の私にはそれ以上は深く語らない。恐らく、私がしたような質問は何百回ともなく受けてきたのだろう。そして、文字にしてしまうと「軽犯罪ですから」という言葉は、「軽犯罪だから別にいいだろう」という開き直りのように読めてしまうかもしれないが、実際の言葉ではさまざまな感情が含まれている声という印象があった。「いろいろ」という言葉の中に数々の修羅場みたいなものを経てきた経験が含まれているのだろうな、と感じた。  イメージとしては、「さんざん悪さをしてきた不良が、過去の行ないを見つめ直して大人になっている」という感じだろうか。彼らには失礼な表現かもしれないが。ただ、一方で現場でバリバリやっているときはいわゆる「世間のルール」とはまったく違うところに生きているのが、彼らグラフィティ・ライターという人々である、ということもまた間違いない(また、「法治国家で法を守ること」は当たり前すぎるほど当たり前の大事な大前提だが、その前提を共有したうえで、ときに「自分でリスクを引き受けて、あえて違法行為を行うこと」が世の中を変えることもある。これも他人の人権を侵害しないことが大前提となるが、この件に関しては、次回以降に触れていく予定だ)。

VERYONEの2019年最初の作品。本人インスタグラムより転載

 さて、このように書くと、グラフィティ・ライターに対して「違法行為をしてのうのうと生きている人たち」という印象を受けて怒る人も多かろう。だが、それですべてが免責されるわけではないという前提のもと、実際に彼らはその行為に対しての「代償」や「制裁」を受けてきたようだ。ヴェリーさん自身がグラフィティを続けていくなかでの実体験を書ける範囲でご紹介しよう。 「もう失敗の繰り返しですよね。警察ともいろいろありましたし、怒られたし。また、僕が活動しているエリアではグラフィティ・ライターも街の人も、みんな繋がっているわけで、呼び出されて」  なにせ、自分の名前を堂々と書いているわけだ。街なかの壁などにVERYONE、と。「お前、やったろう」と言われたら言い逃れもできない。また、インターネットに個人情報を晒されるなど、自分の行為のリスクに対しての「制裁」を、公的にも私的にも受けているのが実情だ。さらに、これはヴェリーさんの話ではないが、グラフィティ・ライターがもちろん賠償請求をされて、数百万単位のカネを支払うようなケースもあるという。 「ただねぇ、カネをとっといて、そのグラフィティを消していなかったりすることもあるんですよね」  なんなんだろう、足元を見られているのか、と少しヴェリーさんは怒っていた。このように、リスクを取りながらもストリートにこだわってきたヴェリーさんだからこそ、合法な活動に移行した現在も、「グラフィティに寄せてくるアーティスト」を完全否定する。
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グラフィティ風アートに対する怒り
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現在、VERYONEが大阪にて二人展に参加中。
『コンフティレイヤー シンクロニシティする異文脈』
VERYONEとTai Ogawa/小川泰
大阪市中央区千日前2-3-9味園ビル2F
「TORARYNAND」にて開催中
3月2日(土)~3月29日(金)
水木金土開場19:00~last エントランスフリー(1D別途)

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