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昭和でもおっぱい、平成でもおっぱい、令和でもおっぱい。おっぱい神話は終わらない――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第40話>

常連の爺さんが遺した手紙

 知らない爺さんが亡くなった。  それは冬の日のことだった。あまり知らない人が亡くなったのだ。  当時の僕はビリヤードに夢中だった。大学生ぐらいの頃だったが、単純にビリヤードが上手いと女にもてる、そう勘違いして熱心に練習していたのだ。  通っていたビリヤード場は川の近くにあって、ボロボロの建物だった。けれどもビリヤード台だけはピカピカに手入れされていて、鮮やかな緑が眩しいくらいに輝いていた。  本気でプロを目指している人や、趣味でやってるけど無茶苦茶上手な人、女にもてると勘違いして練習しに来ている人、と様々な連中が常連となっている場所だった。そんな中である話題が持ち上がった。  「じいさまが死んだらしい」  僕は知らないが、以前はよくここにビリヤードに来ていた爺さんで、ここ最近はこないなあと思っていた矢先、家族からの連絡で亡くなったことが伝えられたようだ。  「あんな元気だった人が」  常連たちは口々にそう言った。じいさまは結構なお歳だったが、ハイカラにもビリヤードが好きでしょっちゅうここに来ていたようだ。最後のほうはあまりビリヤードをすることはなかったが、隅っこに置かれたソファーに座り、時に檄を飛ばし、時に若者の人生相談にのったりとしていたらしい。  「うわあああああああ」  突然の訃報に一人の若者が崩れ去った。僕と同じ大学生で、いつも練習に来ている常連だった。たぶんビリヤードができたら女にモテると勘違いしていたんだろう。どうやらその彼がじいさまに一番かわいがられていたらしく、いつも就職相談や恋愛相談、時にはじいさまの方から遺産の相談をされることもあったらしい。  「嘘ですよ、そんなの絶対に嘘ですよ」  若者は泣いた。沈痛な、重苦しい雰囲気が辺りに充満した。僕なんかはまあ知らない人なのでピンとこないが、他の常連にとっては精神的支柱みたいだったらしく、落胆が激しかった。とてもじゃないが、カコンみたいな陽気な音を立てビリヤードできる雰囲気ではなかった。  「そういえば!」  アルバイトの女の子が何かを思い出したように声を上げた。ソバージュ頭があまり似合っていない彼女がそのソバージュ頭を振り乱して何かを取りに店の事務室へと向かった。  「これ、片岡君にじいさまから。何かあった時にって」  手には封筒が握られていた。どうやら泣き崩れていた若者に残されていた何からしい。  「なんだろう、じいさま心配してたからな、手紙とかかな」  「もしかして遺産とかじゃないの?」  常連たちが口々にそう口にする中で、若者は封筒を開いた。
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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