エンタメ

「夫だから/嫁だからこうすべき」という呪縛から解放され自由を得られた

子供をつくるという選択ができる期限

 妊娠・出産は夫婦間におけるセンシティブな問題の一つだ。作中には、「僕はリっちゃんをお母さんにするためのセックスがしたい」「自分の子供がいる未来を失い続けているんだよ」という理津子の夫・一史(史くん)のセリフがある。理津子とのセックス中に投げかける言葉だ。自分の子供が欲しい史くんは、彼女の排卵日のときだけ“挿入”をする。  一方の理津子は、夫にバレないようにピルを飲む。「子供を産むための体としてだけ求められている違和感に対する反抗でもある」と鳥飼氏が指摘するように、ときに子づくりは、愛情とは別の部分で男女の間で齟齬を生むことがある。氏には元夫との間に子供がおり、現夫(浅野氏)との間にはいないが、子供について話し合うことはあるのか。 「夫は子供を積極的に欲してはいないんですが、『(年齢的に)子供がいない人生がどんどん近づいている』というようなことを言われたことはあります。今は卵子の冷凍保存もできるなんていいますが、子供が欲しくなったときに『自然妊娠ができる健康的で若い女性がいい』と思うのは、男性本人の自由意思。面と向かって言われたらかなりショックですけどね。  私が産むのが難しい年齢になってから『自分の子供が欲しい』と告げられたら、私、どうしたらいいんでしょうね(笑)。フランスとかに雲隠れするしかないのかな」  作品の今後の展開を「私の人生においても夫婦関係は大切なこと。これから重点的に描いていく」と語る鳥飼氏。“喪失”の先に何があるのか。『サターンリターン』を片手に考えたい。 【鳥飼 茜】 ’81年、大阪府生まれ。男女の性差の本質を見抜く鋭い洞察力に定評。『週刊スピリッツ』(小学館)で「サターンリターン」を連載中。既刊に『地獄のガールフレンド』(祥伝社)、『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』(KADOKAWA)、『先生の白い嘘』(講談社)、『ロマンス暴風域』(扶桑社)ほか 取材・文/谷口伸仁 撮影/杉原洋平
1
2
サターンリターン

理津子の親友・アオイは生前の言葉通りにこの世を去った。大切な人の死、夢、夫婦生活――。人生のさまざまな喪失と向き合う、『週刊スピリッツ』で連載中の衝撃作


ロマンス暴風域 (2)

肩書、年齢、男性であること――。目を背けることのできない現実に惑う主人公が求める、真実の愛とはなにか。“恋愛弱者のロマンス"ここに完結

おすすめ記事