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「夫だから/嫁だからこうすべき」という呪縛から解放され自由を得られた

―[鳥飼 茜]―
 男女のすれ違いや女性の心の機微を巧みに描き、「何か見透かされている」と、ときに世の男性を戦々恐々とさせてきた漫画家・鳥飼茜氏。氏がこのたび、“喪失”をテーマに、友人の死や夫婦の在り方に切り込んだ新作が『サターンリターン』だ。主人公は小説家の加治理津子。宣言通りに自ら命を絶った親友・アオイの死の真相に迫るべく、彼と縁のある人や場所を訪ねていく。他人の人生の断片を拾い集める過程は、自分の人生と向き合うことでもあり、同時に、他者との間の信頼を揺るがせる一面も持っている。

社会が望む夫婦の形を手放すことで、信頼が担保される

鳥飼 茜

鳥飼 茜氏

「最初から『喪失について描こう』と思っていたわけではなく、日々のなかで何かを失っていく感覚を無我夢中で描くうちに決まっていきました。親友だと思っていた人が突如この世からいなくなって、『本当はどんなことを考えていたのか』『彼にとって私の存在意義はなんだったのか』という疑問が理津子を動かします。実は私自身も大切な友人を自死で失ったことがあるんです」  友人の痕跡をなぞるほど、“距離感”がわからなくなっていったと語る。 「人が死ぬと、スマホ、メール、写真といった、“物”だけが残されます。すると、その痕跡から推測が生まれる。仮に『ずっと好きです』という自分に向けた文章が残っていたとしても、書いた本人がこの世に存在していない以上、それが本心かを証明する手立てはありません。当事者というフィルターを失うことで、逆に築いてきた心の距離が曖昧になっていったんです」  果たして、理津子とわれわれ読者は“喪失”の先に何を見つけるのか。他方、プライベートでは昨年9月に同じく漫画家の浅野いにお氏と再婚。Yahoo!ニュースで取り上げられるなど、大きな注目を集めたが、「社会が形成してきた結婚生活の在り方と比べると、歪です」と言うように、夫婦生活は型破り。 「どこで誰と何をしていようが互いに干渉しない」「気が向いたら帰宅」など、奔放な価値観で生きる夫に当初は戸惑ったというが、どう“夫婦の信頼”を担保しているのか。 「少し前までの私は、『一緒の時間を増やす』『夫の出先に妻としてついていく』など、物理的に近づくことで夫婦としての絆を地固めしようとし、夫にも同じことを求めました。でもそれは『相手のために“自分を減らす”ことを強要し合うということ』で、いつも少し苦しかったんです」  そこで一旦、“強要が生む不自由さ”を手放してみることに。 「『夫だから/嫁だからこうすべき』という呪縛から解放されると、『相手も自分と同じように、いつ誰と一緒にいてもいい』と、考え方がシフトして自由を得られたんです。そうなって初めて、ありのままの鳥飼茜として彼と向き合えるようになりました。逆説的ですが、お互いの自由を尊重した結果、信頼が担保されたんです。  当初は、帰ってこない夫のことを友人に相談しては『(毎日帰宅すべきと言う)あなたが100%正しい』って言われ、『他人から見た私は幸せじゃないんだろうか』って揺らいでましたけどね(笑)。夫婦なら毎日一緒にいるのが当然と考えている人に聞いたら、当然そのジャッジになるわけですが。結果として、私たちはある程度“純粋な欲求”のもと、それぞれが生活しています。自分の幸せを追求するほうが健全だと気づいたんです」  38歳にしてやっと自立し始めたと笑顔で話す鳥飼氏。本人いわく、現在、第三次成長期を迎えているのだとか。
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子供をつくるという選択ができる期限
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サターンリターン

理津子の親友・アオイは生前の言葉通りにこの世を去った。大切な人の死、夢、夫婦生活――。人生のさまざまな喪失と向き合う、『週刊スピリッツ』で連載中の衝撃作


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