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人は気づかぬうちに“自分らしさ”を失っていく。漫画家・鳥飼茜インタビュー

―[鳥飼 茜]―
 喪失の先に待つのは「生」なのか、あるいは「死」なのか。それとも……。これまで鋭い視点で男女の性差を浮き彫りにしてきた漫画家・鳥飼茜氏が、新境地に挑む新作が『サターンリターン』だ。主人公で小説家の加治理津子は、自ら命を絶った親友・アオイの死の真相に迫るべく、実家、友人、ホストクラブと、アオイと縁のある人・場所を尋ねていく。他人の人生の断片を拾い集めていくその過程は、一方で自分自身の人生とも向き合うことでもあり――。  “喪失”をテーマにした本作。「今までの作品のなかで群を抜いて手応えを感じている」と力強く語る彼女に作品の見所を聞いた。 ――今作で力を入れた部分を教えてください。 鳥飼:“喪失”をいろいろな角度から描くことです。親友のアオイは「失恋」によって予告していた自殺を遂行し、生前の彼と親交があった主人公の加治理津子は、彼を死の手前からある意味で見放していたことに自責の念を感じ、その喪失と向き合うことになります。これは『死』という極端に大きな出来事によってですが、そうでなくても私たちは、就職、結婚、妊娠といった人生のイベント、もっと言うと日常の些細な出来事からも「こういう場面ではこうあるべき」という常識や都合によって、本来的ななにかを失っていっていると思うんです。  今この場にいる、私とインタビュアーさんと編集さんは、偶然居合わせた訳でもフリートークを楽しむために約束した訳でもなく、都合によって集まって、都合によって話をしているわけですよね。役割上あるべき姿として。 ――われわれが失っているのはどのようなものなんでしょうか? 純粋さとか? 鳥飼:そうかもしれません。例えば小学生の持っている、「もっとここで遊んでいたい」とか「自分は猫や犬としゃべれる」とかっていう率直な願いみたいなもの、それらは大人になって社会を回していくために、標準の大人の形に収まるために、切り離していかなきゃいけないことになっている。みんな普通でいることを優先して、喪失したことを置いてけぼりにしながら、大人を演じているんじゃないかと思うんです。  剪定されたその喪失は無駄な枝葉のようで、実はその人の持つ人間の奥底の、本来的な希望だったり自分に対する信頼とかっていう、とてつもない光だったりするんじゃないか。 『サターンリターン』では、加治理津子の歩みを緻密に描くことで、“喪失”の身近さを描いていきたいと思っています。
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“喪失”をテーマにした理由
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週刊SPA!7月23日発売号(7月30日号)では、作品にも深くつながる鳥飼氏の夫婦生活や思いについてのインタビューを掲載しているので、そちらもチェックを。
サターンリターン

今読むべき、様々な「喪失」を描いた問題作

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