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<純烈物語>前川清が、復讐の鬼と化した巨大パンダから純烈を救う<第9回>

ピンチの酒井へ助太刀に現れたのは……前川清!

 次の瞬間、ステージへ現れた一人の男の姿が目に入るや酒井の表情が一転。ファンタジーの中で気持ちよく戯れていたのが、ものすごい力によって現実へ引き戻された人間特有のカオツキになっていた。 「ま……前川さん!?」  夢の中に出てきたのではない。今、現実としてなぜ前川清がそこへいるのか、酒井は理解できずにいた。  それもそのはず、当初はスローモーションのあとに前川は映像で登場する予定だった。ササダンゴが書いた台本でもそうなっていたため、酒井はすっかりそのつもりで舞台へ上がっていたのだ。 「純烈のNHKホール初ワンマンということで、最後にビッグなゲストを出そうと思い、言うまでもなく前川さんを考えてVTRでの出演をお願いするつもりだったんです。ところが台本を見ていただいた時に『これだったら俺、その日いくよ』と言ってくださって。そこから僕らの中では切り替わったんですけど、純烈のメンバーには言わないでおいて本当のサプライズにしたんです」  ササダンゴによると、このことは演出の小池竹見と亜門役の今林久弥、そして制作サイドしか知らなかった。たまたま同じ時間帯に隣のNHKに出演していたため「これなら間に合うから」と、前川が飛んできたのだ。  なんとか話を進めなければと酒井はギャグに持っていこうとするのだが、言葉を放とうとすればするほど涙がにじんできて、セリフでもなんでもなくなってしまった。前川は泣き崩れそうになるその体を支えるように「おまえ、今、大ピンチなんだってな。デッカいパンダと闘ってんだろ? パンダの弱点を知りてえんだってな。そんなの簡単だよ!」と、ファンタジーの中へ連れ戻そうとする。 「いったい、どんだけ純烈を助けてくれるんだよ、この人は!って思って、ふと目が合った瞬間、涙が止まらなくなりましたよね。向こうはそんな僕を見てゲラゲラ笑っていたけど、スローモーションを初めて自分で解除してしまいました。マッスルで鈴木みのるさんや大仁田厚さんが大物プロレスラーとしてサプライズ登場した時の、リアルとファンタジーが入り混じったあの感覚を思い出しました」(酒井)  現実とファンタジーの境界線をまたいでいったり来たりし、リアルを超えたリアリティーを描くことで人々の心を揺さぶるマッスルを純烈のファンに見てほしかったはずなのに、自分が一番泣けてしまうとは……深層意識の中で導いてくれた前川が、そこから飛び出しNHKホール初ワンマンという晴れ舞台に駆けつけるなど、夢でも描けなかった。  この部分においてはマッスルも純烈も、プロレスも歌も関係なく万人に伝わるリアルである。マダムの皆さんがもらい泣きする中、前川はアンドレザに勝つための秘策を酒井へ授けるべく、言葉を続けた。 「動物はな、みんなアンモニアの匂いに弱いんだよ!」 (つづく) 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売
純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。
白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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