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<純烈物語>ド平日の昼間、NHKホールの高揚<第6回>

NHKホール公演の直前、純烈メンバーと記者会見に臨んだ、スーパー・ササダンゴ・マシン(マッスル坂井)と鶴見亜門(今林久弥)

「白と黒とハッピー~純烈物語」第6回

マッスルテイストによる純烈公演 『NHKホールだよ(秘)大作戦』に潜入 「今度、マッスルのみんなとマッスルテイストのお芝居をやるんですよ。マッスル(坂井)が台本を書いて、今林(久弥)さんも出演するんです」  それを酒井一圭から聞いたのは、5月の大江戸温泉ライブの取材時だった。インタビューを終え、これからステージの準備に取りかかるためいったん席を離れるさいに、テレビ番組の予告編のようなタイミングで振ってきた。明らかに何かを企んでいる目つきをしており、頭の中へいかにも筆圧が高そうなフォントで「乞うご期待!」という文字がグワーンと浮かんできた。  立場上、マッスルサイドからもどんなものになるのか探ることはできたのだが、これはまっさらな状態で見た方がいいと思った。酒井が前衛的プロレスイベントの「マッスル」に出演していた時も、そのようなスタンスで眺めることにより驚きや楽しさを味わい、心を揺さぶられていたからだ。  酒井のプロフィールに出てくる「プロレスラーとしてリングに上がる」という過去。ステージ上でムード歌謡曲を歌い上げている姿からは想像もできない経歴は、当時を知る者でなければ想像し難いと思われる。  だが、子役時代からさまざまな経験を積んできた酒井にとって、プロレスに携わっていた時期は忘れることのできぬ特別なもの。また、どこかで現在の純烈にもちゃんとつながっている。  もっとも、プロレスラーといっても新日本プロレスや全日本プロレスのような昭和の時代から脈々と受け継がれるトラディショナルなリングではなく、価値観が多様化した平成プロレスシーンの中でマッスル坂井が生み出したカウンターカルチャー的な表現の場。それまでの概念にとらわれぬ演劇的手法や、映像を駆使した斬新な見せ方で熱烈な支持を得た世界観の住人として、喜びと苦悩を分かち合った。  もちろん、試合そのものに関しては酒井も体を張ってリングへ上がった。さる8月12日、新日本が毎年真夏に開催する最強戦士決定リーグ戦「G1クライマックス」で初優勝を果たした“ゴールデン☆スター”飯伏幸太とのシングルマッチも経験し、プロの技を逃げることなく受けている。  痛みを共有し、さらには観客に楽しんでもらうための産みの苦しみも一緒に経験したあの頃は、酒井にとって遅れてきた青春のようだった。役者としてなかなか世に出ることができずにあがいていた自分には貴重な表現の場であり、みんなで物作りをする喜びにありつけた。  坂井がプロレスラーを引退し、家業の金型工場を継ぐことにより2010年10月にマッスルは惜しまれつつ最終回を迎える。20年後、選手たちの子どもが集い、再開させるという未来へと続くドラマを残して。  マッスルが終了する4か月前に純烈はファーストシングルをリリースしており、すでに新たなる道を歩み始めていた。今思うと、そういうタイミングだったとしか言いようがない。  酒井のように、マッスルはプロレス以外のジャンルに携わる者たちがそこで培ったものをリングへフィードバックする場でもあった。劇団双数姉妹の役者だった今林久弥が鶴見亜門という狂言回し的ポジションを担えば、坂井自身もレスラーとしてよりもサブカル方面からインスパイアされる種を見つけていた。  おそらくこの時点で、酒井の中には純烈で成功しマッスルへ還元する日を夢見ていたと思われる。そしてそれは今年2月に現実のものとなる。
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本当に面白いことをやる時は、告知しない
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