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ラグビーW杯の楽しみ方を『スクール☆ウォーズ』のモデル・大八木淳史が解説

味方チームの選手を「いかに余らすか」

――盛り上がりに欠ける理由の一つとして、「にわかファン」には近寄りがたいルールの難解さがあるのではないか。 大八木:ひと言で説明するならラグビーは「陣取りゲーム」。ラグビーはボールを前に投げたり落としたりするのが禁止で、後ろにパスするか前に蹴らなければならないが、このとき注意して見てほしいのが、味方チームの選手を「いかに余らすか」という点。例えば、僕がボールを持っているところに、敵陣の選手2、3人がタックルにくれば、その分、相手チームの選手が欠け、余った味方の選手が自陣を前に押し込むことができる。  ラグビーは、体の激しいぶつかり合いが認められているスポーツで、「常に紳士であれ」、「卑怯なことはしてはいけない」という原則が貫かれているが、これだけ押さえておけば、細かいルールはわからなくとも楽しく観戦できますよ。 ――強豪ひしめく今回のW杯で、日本代表チームはかねてから目標として掲げていた1次リーグ突破を実現できるのか。 大八木:今年に入ってからの日本代表チームのテストマッチは通算成績3勝2敗。どの試合を見ても平均して強さを維持できているので、ワンサイドの大差で負けるようなことはないと思いますよ。  日本(世界ランク10位)と同じプールAに入っているのは、アイルランド(2位)、スコットランド(7位)、サモア(16位)、ロシア(20位)の4か国だが、決勝トーナメント(以下T)に進出できるかどうかは、初戦のロシア戦にすべてが懸かっている。ジェイミーが考えるベストメンバーをぶつけて、どんな手を使ってでも、何がなんでも、絶対に勝ち切らなければならない!  開催地の利でファンが多く駆けつけてくれるでしょうし、気候はほかの国にはない異様な蒸し暑さ、日程も最も格下のロシアが初戦といいことずくめ。最初の試合に勝てば日本全体も盛り上がり、追い風になることは間違いないでしょうね。 ――ロシア戦に勝利すれば目標が見えてくる? 大八木:前回W杯で、日本は3勝したにもかかわらず得失点差で決勝Tに進めず、“最強の敗者”と称されたことを考えれば、一番格下のロシア戦では大量得点しておきたいところ。ただ、ロシアに勝っても、色気を出してアイルランドも……なんてことは思わないほうがいい。  アイルランドの初戦は、プールAで2番目に強いスコットランド戦ですが、順当にアイルランドが勝ったら、やはりアイルランド戦は「捨て試合」とし、力を温存して、その後のサモア戦とスコットランド戦にすべてをぶつけるべき。とはいえ、シナリオどおりに進んだとして、1次リーグ突破の可能性は……厳しいですが、それでも20~30%じゃないでしょうか。 ――日本のラグビーのよさはどこにあるのか。 大八木:日本の伝統的なラグビーは、早稲田大学ラグビー部の名将で、’66~’71年にジャパンの監督も務めた大西鐵之祐氏が唱えた「接近・展開・連続」がベースにあり、これは、体格的に劣る早大を率いていた大西監督が、ライバルの明大に勝つ方法として編み出した理論です。  体の大きい相手にはスペースを与えず、できるだけ「接近」してプレーし、相手選手と接触する寸前に、味方に正確なパスを出し、人もボールもワイドに「展開」する。そして、こうしたプレーを「連続」させる戦術は、フィジカルの強さを武器にする選手が多い諸外国との試合でも通用します。  ボールを支配し、ショートパスを多用し、人もボールも動く日本のラグビーができれば勝利は近づく。現在の代表選手はFW、BKを問わず、オールラウンダーが揃っていて、パスの技術も高い。こうした戦術に加えて、近年は多くの外国人選手も代表入りしている。  彼らはプロ意識が高く、日本人以上に日本を背負って戦うハートを持っているので、今も日本代表チームは進化し続けていると言っていい。南半球の国は、接戦になっても最後には何となく勝つというチームが多く、自分たちの勝ち方を持っている。  一方、アイルランドやスコットランドも勝ち方を知っているわけですが、前回W杯で日本が優勝候補の南アに勝ったのは、向こうのシナリオにないことを日本がやったから。だから、日本が決勝Tに進出するには、相手国の筋書きをどう裏切るかに懸かっている。
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ラグビーは多様性を重視したスポーツ
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表紙の人/宇垣美里

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