更新日:2019年12月30日 02:36
エンタメ

<純烈物語>純烈でもう一つのガオレンジャーを作ってきた<第13回>

純烈でもう一つのガオレンジャーを作ってきた

 何よりも欲しかったのは、小田井の“年上”というタグだった。酒井がガオレンジャーに出演していた時、自分よりも1歳上の金子昇がいた。レギュラー陣の中では長男的なポジションを務め、それによって次男坊の自分が自由に動けた。  ガオレンジャー5人(玉山が加わった以後は6人)で動きのフォーメーションを考えるさい、酒井はどうしても気持ちが先走って前へ前へと出てしまっていた。そういう時は、ガオレッドの金子が後ろに下がってドッシリと構える。  スタッフにも、メンバーの間で決めたことだからと説得し、話を通した。酒井は、そんな金子の姿を見て組織における年配者の存在意義を学んだ。 「あの頃の金子が、今の小田井さんなんですよ。リーダーである僕の代わりにいろんな関係者へ挨拶して回ってくれたり、周囲を気遣ったりして組織のバランスをとってくれている。それも、僕からそうしてくれって言っているわけじゃないの。よく、僕が純烈のお父さんで小田井さんがお母さんって言われるんだけど、それは本当ですよね。  僕は社交性があるように見えて実はないから、小田井さんがやっている。小田井さん自身もけっして社交性が高いわけではないんだけど、そこは努力してくれているんですよ。酒井をフォローするつもりでやっているのかどうかはわからないけど、それによって僕が助かっているのは事実。もうわかったでしょう? 僕は純烈でもう一つのガオレンジャーを作ってきたんです」  小田井がいるから、酒井はリーダーとしての役割に専念できた。ガオレンジャーは最年長の金子と一番年下のガオホワイト役・竹内実生(みお)の間に10歳の差があった。そこまで年代が違うと喧嘩にはならない。  文化の違いを拒絶せず「そういうものなのか」と発見としてとらえ、その中で遊べるのだ。これが1、2歳しか違わない者同士の集まりだと衝突し合ってしまう。  そうしたバランスも考慮した上で小田井を誘ったわけだが、現実的にカバン一つで純烈へ飛び込めるような立場ではない。抱えている仕事もあれば、その時点で応援してくれるファンもいた。  結果的に小田井は、俳優と並行してやるという保険をかけた。酒井も、その方が一般的な方法だと納得できた。いくら自分の中で勝算があったとしても、純烈で絶対に成功する保証などない。 「それが小田井さんの性格なんだと思います。精神的な部分で、今もなんらかの保険をかけている。だから、LiLiCoさんと結婚されたのはその意味でもよかったんです。今の小田井さんは、純烈というユニットと、LiLiCoさんとのユニットを掛け持ちしている。その方が精神的にもバランスがとれるんだと思う。  その一方で、そっちの方が大変でしょうということをやってしまうのも小田井さんなんだよね。普通に考えたら誰もが右を選ぶのに、小田井さんは左にいかないと気が済まない。それを見て、自分がやれないことをやれる人間としてみんなが共感する」  酒井いわく純烈結成以来、小田井から「年上の人間として言わせてもらうけど……」と迫られたシチュエーションは一度もないらしい。年長者でありながら、あくまでも純烈のメンバーとしてリーダーに従うスタンスで一貫しているのだ。 「なんであそこまで僕にやいのやいの言われながらやってくれているのか……それは僕も聞いたことがないんでわからないんですけどね」と、酒井は笑う。年上だからやりづらいと安易な方へ走っていたら、現在の純烈は確実になかった――。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
1
2
おすすめ記事