更新日:2019年12月30日 02:36
エンタメ

<純烈物語>純烈でもう一つのガオレンジャーを作ってきた<第13回>

小田井涼平(左)と酒井一圭

第13回 酒井一圭が求めた“年上”の存在。小田井涼平が純烈で担うものとは

 ステージにおける回し方やメンバーそれぞれの立ち位置を眺めていて、もっとも興味深い存在が小田井涼平というマニア連は多いと思われる。リーダー・酒井一圭よりも4歳年上の最年長者らしく、全体を見た上で自身のやるべきパフォーマンスを心がけている。  ノーマルな考え方に基づけば自分よりも年下の人間で固めた方が、円滑に物事を進めるのに都合よかったはず。上がいるとやはりそこは気を遣うし、遠慮する部分も出てくるかもしれない。  年齢による関係性が組織のバランス崩すことは、どの世界でもある。だが酒井は、メンバー選びに奔走していた時点で自分よりも年上の小田井を入れようとした。  白川裕二郎同様、小田井も酒井がガオレンジャーに出演した翌年、俳優デビューしている。いきなり『仮面ライダー龍騎』のメインキャラクターの仮面ライダーゾルダ役だから、大抜てきだった。  戦隊俳優たちのDVD出演に関するキャスティングをやっていた酒井の視界に小田井が入ってくるまで、そう時間はかからなかった。イケメンヒーローブームの恩恵をダイレクトに受けた世代であり、数字も持っていた。 「ただ、それでもまだ世間一般ではないわけで、そこに定着するための“石の上にも3年”に当たるものがなかったんです。オダギリジョー、玉山鉄二、金子昇、要潤と来て、その次の世代が白川や小田井さんだったんだけど、話題にはなっても世の中が飛びつくコンテンツにはいたっていなかった。  そういう中で、これも東映の横塚孝弘さん絡みの話になるんだけど『プレイガール』(2003年)を東映でリメイクするとなった時に佐藤江梨子ちゃんが務めた主人公の恋人役が自分で、その友達役は誰がいいかって聞かれて僕は小田井さんをあげたんです。理由は会ってみたかったから。そして共演してみたかった。それで、オーディションがてら飯に誘ってみようとなって、三軒茶屋で初めて会ったんです」  顔を合わせるまではルックス的にクールな人かと思っていたが、純烈として現在発揮されているキャラクターと変わらぬ関西人特有の面白さに「この人でいこう!」と横塚プロデューサーも即決。酒井も共演し手応えをつかんだが、以後は一度も会わぬまま時はすぎていく。

「ど真ん中じゃなくて四スミ」小田井の俳優としての立ち位置

 しばらく酒井は、外側から見ていた。すると、順調に仕事を増やす一方で小田井にまとわりつく俳優としてのシンドさがクッキリとした輪郭となり浮かんできた。 「あの浪速のノリにギャップがあって、言動を見ても人がいい。ただ、それによってパブリックイメージがキッチリ確立されちゃっているから、同じ役ばかりやっている人という印象を持たれていた。じゃあ反転させた役をやろうとするとナチュラルじゃなくなる。それで疲弊していって辛くなる俳優を何人も見てきたんです。常に何かをやらなくちゃいけない役になって頑張っちゃう。  でも、本当はちょっと楽できてもオイシイ役っていうのもあるわけじゃないですか。小田井さんは常に四スミを取らざるを得ない役ばかりやる俳優にされてしまっていた。悪くはないんだけど、主人公ではない……ど真ん中じゃなくて四スミ。それは俳優としてナメられない立ち位置なんだけど、永遠に続けるのは不可能です」  あまりに役がハマりすぎて、その印象だけが強く残りほかのキャラクターを演じてもしっくりとせず、やがて消えていった役者はゴマンといる。そうならぬよう、小田井はどんなキャスティングでも全力投球を続けている……酒井の目には“一試合完全燃焼”をモットーにボロボロとなりながら超人的な野球を繰り広げる『アストロ球団』の消耗ぶりのように映った。  ならばここはいったん今やっていることから卒業し、別の可能性に向かってステップアップした方がいい。だからといって、白川と同じように自分から俳優としての限界を指摘し純烈へ引き込むわけにはいなかった。小田井は、その時点で仕事も収入もある人間である。  やってみたけどダメだったからといって、元には戻れない。一度離れたら、すぐさまそのポジションには別の人間がハマる。つまり、純烈を選んだ時点で小田井は退路を断たれる。  渋谷東急の「銀座アスター」に呼び出した酒井は、白川を誘った時とはまったく違う姿勢で臨んだ。ある意味それは、誘導尋問のようなものだった。 「やりたいことを決める方向性におけるヒントっていうかな。小田井さんは俳優としてこうだけど、こういう可能性(純烈)もあると思うんだよねという言い方。そこに本当はシンドくないですか?と振ってみた。辛いんだったら、別の選択肢があると思ってそっちの方も一つ考えてみてくださいよ。同じおじさん同士だし、こっちの方も結果的に狙えるような気がしません?って、純烈に可能性が見いだせるよう誘導はしました。  なぜそういう出方をしたかというと、共演した時に手合わせしてみたら組み手が悪かったから。会話やセリフで喋る分にはいいんだけど、役としては全然合わなかった。つまりまったく違うタイプだということがそこでわかるわけです。加えて、ちょっと偏屈なんだというのもわかった。偏屈な人にズバリ答えを言ってしまうと、図星にスライドしてしまうじゃないですか。そこは言わないでおくというトラップの仕掛け方ですね」  自分の可能性に余白を与え「ここにも描けるスペースがあるから」という言い方ではなく「あるんじゃないですか?」と、答えは提示せずに本人から出させるような持っていき方。それで酒井は向き合った。
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純烈でもう一つのガオレンジャーを作ってきた
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

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