更新日:2023年04月25日 00:33
エンタメ

<純烈物語>なぜ純烈は身のほどをわきまえられたのか? 酒井一圭の「俯瞰する才能」を開花させた原体験<第16回>

■まるで太刀打ちできなかった子役の世界

「ガキの時点で、やっぱりすごいやつがいっぱいいるんだなと思っちゃったんです。7歳で入った劇団はピラミッドが形成されていて、売れっ子の5~10人は特待生クラス。僕は一番下っ端のクラスで100人いるような大部屋だった。ある日、先生が『ペチをやるよ』と。ペチって何?と思ったら、いなくなった犬、ペチがやっと見つかって抱きしめるお芝居で、その中で3回まで『ペチ』というセリフを言っていいというやつだったんです。  するとみんなわれ先にとばかり手をあげて、いきなり泣く子もいればセントバーナードみたいなペチもいる。ありとあらゆるペチが本当に見えるんです。それで俺、手をあげられなくて。クリスマス会や幼稚園のお遊戯でちょっと誉められて『テレビの世界で勝負したい。こいつらとは違うんだ』という気持ちで入ったのに、まるで歯が立たないぐらいすごくて恐れをなしてしまった」  子役としてテレビに出る気満々で劇団へ入ったら、まるで太刀打ちできぬ世界を目の当たりにしてしまった。敗北感に打ちひしがれた一圭少年は、毎週日曜に「いってきます」と外に出るも、足が向かなくなり駄菓子屋で時間を潰すようになった。  2か月ほど通っているフリを続けていたら、来なくなったにもかかわらず劇団からエキストラのオーディションを振ってもらえた。続けるためのモチベーションを与えてくれたのだ。  この時、一圭少年は「何も演技ができないのにちゃんと見ていたということは、それ以外の何かで見てもらえているんだな」と思った。それがなんなのか自分でもわからぬまま、とりあえずまた劇団に通い出す。そして小学2年の時、初めてCMのオーディションに受かった。 「パンのCMで、食べて『おいしい』って言うんですけど、口の中にパンが入っているんだから『おいしい』って言えないだろと思って、落ちてもいいやと『おいひい……』って言ったら受かった。そこからですよ、自分の思ったことを、勇気振り絞ってちゃんと提示することがなんとなくインプットされた。  そのあと『逆転あばれはっちゃく』で主役は落ちるだろうけど、それでもテレビに出るのが夢だからと友達役のオーディションを受けたんです。冬だったんですけど、控室でカイロのホカロンの投げ合いをフザケ半分でやっていたら、そのうちマジになってケンカに発展し、砂鉄がブワーッ!と全身にかかっちゃった。そこで呼ばれて、真っ黒な状態でいったら審査員の人たちが『ここにいたぞ!』って興奮しているんですよ」  主役にふさわしい子役がなかなか見つからず、先にクラスメートの方から決めてしまおうとなって呼び込んだのだ。そこには、はっちゃくのイメージにピッタリのいかにも腕白そうな小汚い少年が、バツ悪そうに突っ立っていた。 『逆転あばれはっちゃく』の“逆転”は、そのエピソードからつけられた。たまたま友達役のオーディションへ一緒に受けたその子がホカロンをぶちまけなかったら、受かっていない。  自分に演技力がないことは重々承知していたから、酒井は「俺はなんてすごい強運を持っているんだ」と受け取った。後上を誘う決め手となった運の重要性は、ここから来ていた。  そして、はっちゃくを演じるうちに「運というものに対しても、技術面や周りとの関係性を勉強しなければ呼び込めないのでは」と考えるようになっていった。夢だったテレビの世界だが、進めば進むほどバケモノのようなすごい人たちがそびえ立っている。  そこではもはや、運のみを頼りにやってはいけない。テレビの中では暴れながら、ブラウン管の外ではっちゃくは世の中という壁の高さや厚さを嫌というほど味わっていた。  自分を客観的にとらえ、周囲を俯瞰しなければ夢を形にできない世間のシステムを少年の頃に学んだから、酒井は純烈に対しても同じ姿勢で向き合っている。運とはいわば他力。つまり、やり方次第で自分たち以外のパワーを引き寄せることができる。  偶然ではなく、必然の運。それを酒井は純烈で生み出すべく一人何役もこなしてきた。 「純烈は僕にとって最高の遊びなんですよ。仕事だったら仕事と割り切るんですけど、仕事の感覚ではやっていない。だからね、ちゃんと遊ばないやつには腹が立つんです」  一人で遊ぶよりもいろんな人たちを巻き込んで一緒に企み、それを実現させていく方がずっと面白い。そのためのメンバーとスタッフを集め、大御所、業界人、他ジャンルのクリエイターたちも純烈丸に乗せてしまう。12年という時間かけて、酒井はこのプロジェクトを成長させてきた。  そんなリーダーの姿勢を、他のメンバーはどんな思いで見てきたのか。取材を終えたあとに「今の話、聞こえていましたよね。どう思いました?」と立ち話程度に振ろうとしたのだが、スーッとふすまを開けるとそこに白川、小田井、後上の姿はなかった。  どうやら音響チェックが、酒井待ちだったらしい。次回の取材テーマが決まった――。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ